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与党税制改正大綱の目玉の一つがNISA拡充

防衛費増額を賄う増税措置の具体策と並んで、12月15日に示される与党税制改正大綱の目玉の一つとなるのが、少額投資非課税制度(NISA)の拡充策である。

NISAは株式や投資信託などの売却益や配当金が一定の範囲内で非課税となる優遇制度だ。今まで時限措置として実施されてきたが、2024年に恒久化される方針である。株式や投資信託が購入できる「一般NISA」は投資期限が2028年までで、非課税で保有できる期間は最長5年間となっている。対象が投資信託だけに限られている「つみたてNISA」は投資期限が2042年までで、非課税の期間は最長20年間である。

政府・与党は来年度の税制改正で、NISAの新たな制度をつくった上で、制度の恒久化とともに投資できる期限も恒久化し、さらに非課税で保有できる期間も無期限とする方向で調整を続けている。

投資上限の引き上げが大きな焦点に

最大の焦点となっているのは、一般NISAで120万円、つみたてNISAで40万円となっている現行の年間投資の上限をどの程度拡大させるかである。政府はNISAの投資額を、今後5年間で現状の倍にする目標を掲げている。その際に、年間の投資上限を引き上げることが目標達成の助けになるだろう。

しかし、上限を大幅に引き上げると投資資金が豊富な富裕者層を優遇することになり、資産格差の拡大を助長してしまうという問題点もある。こうした問題点を踏まえて、生涯通算の投資枠を設ける方向で議論が進められている。

また、政府・与党はNISAの対象となる商品や販売手法の見直しも検討している。国内外の上場株や投資信託に広く投資できる一般型の対象から、リスクの高い商品を除外するといった案が出ている。また、証券会社が株式の販売手数料の増加を狙って新規の株式購入を何度も促すといった回転販売を是正するための新たな措置の導入も検討されている模様だ。

NISA投資倍増目標の達成に向け制度改正はかなり大掛かりに

NISA拡充の狙いは、中間層の資金を現預金から株式市場に向かわせることで、企業の資金調達を容易にし、企業及び経済の成長を促すとともに、個人の長期的な資産形成を促すことにある。一般NISAよりも非課税期間が長いつみたてNISAの方が、その狙いに適合している。そこで、新しいNISAは、つみたて型をベースとし、その投資枠の一部に、一般型の機能を引き継いだ「成長投資枠(仮称)」を設ける方向だ。さらに両者を同じ口座で併用でき、投資上限額を超えなければ、一般型とつみたて型に同時に投資することも可能とする。

さらに政府・与党は、2024年に恒久化する新NISAを現行のNISA制度と分離する方針を固めた。現行のNISAで今まで投資をしてきた人も、新制度を満額利用できるようにする。一般型とつみたて型に同時に投資することも可能となる。

このように、NISAの拡充策はかなり大掛かりなものであり、個人がNISA制度を利用するインセンティブはこれによってかなり高まるはずだ。政府はNISAの投資額を、5年間で現状の2倍の56兆円とする意欲的な目標を掲げているが、その達成も可能かもしれない。

NISA投資の倍増だけでは十分ではない

ただし、NISAの投資額が増えても、今までNISA以外(課税対象)で投資していたものをNISAに移し替える部分もあるため、NISA投資の増加分だけ家計の株式投資が純増する訳ではない。

さらに、NISAの投資額を現状の2倍の56兆円まで増加させることができても、それは依然として個人金融資産約2,000兆円のわずか2.8%に過ぎない。この点から、NISAの投資額倍増だけでは、「資産所得倍増計画」、あるいは「貯蓄から投資へ」の達成には到底近づかない(コラム「 NISA倍増だけで終わらせるな(資産所得倍増計画) 」、2022年11月25日)。

重要なのは、NISA制度の利用を通じて、従来株式投資に馴染みがなかった人も、それに馴染んでもらい、非課税枠であるNISA制度を超えて、株式投資をさらに拡大していくきっかけとすることだ。そのためには、NISA制度の拡充と共に、金融教育の強化によって個人に金融リテラシーを高めていくことも重要となる。

また、個人が株式投資を拡大させるには、日本経済と企業の成長力が高まり、株式投資の期待収益率が高まることが必要になるのではないか。この点から、人への投資、気候変動リスク対応のグリーントランスフォーメーション(GX)など、政府が掲げる幅広い成長戦略と一体で推進していくことが強く求められるところだ。そうした政策の下、企業と個人の成長期待がともに高まれば、投資と投資収益が相乗的に増加していく好循環が、企業と個人の間で始まることになることが期待される。

こうした点から、NISAの拡充やそれを通じたNISA投資の倍増は、「貯蓄から投資へ」、「資産所得倍増計画」に向けた第一歩、と捉えるべきだ。

(参考資料)
「恒久NISA、現制度と分離 投資済みでも満額利用可能に」、2022年12月11日、日本経済新聞
「NISA運用一体化 つみたて・一般 同一口座で 政府方針」、2022年12月10日、東京読売新聞
「NISA商品絞り込み 政府・与党検討 高リスク株除外」、2022年12月4日、日本経済新聞

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。