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財コアの価格は大きく下落

米国では消費者物価統計(CPI)に市場が大きく反応する「CPIショック」が続いている。13日に発表された米国CPIは、前月比+0.1%、前年同月比+7.1%と前月のそれぞれ+0.4%、+7.7%を下回る予想以上の下振れとなった。変動の大きい食品とエネルギーを除くコア指数も前月比で+0.2%、前年同月比+6.0%と前月のそれぞれ+0.3%、前年同月比+6.3%を下回った。

総じて財の価格の下振れ傾向が目立ってきた。食料・エネルギーを除く財コアの価格は、前月比ー0.5%と前月の-0.4%から下落幅が加速した。他方エネルギーを除く財の価格は、前月比+0.4%と前月の同+0.5%から上昇幅を縮小させたものの、引き続き高い上昇率を続けている。ウエイトが高い家賃は前月比+0.6%と前月の同+0.8%から上昇幅は縮小したものの、なお加速トレンドが続いている可能性がある。

金融市場は来年2月・3月に0.25%の利上げを織り込む

金融市場は11月生産者物価指数(PPI)が事前予想を上回ったことを受けて、CPIについても上振れ方向のリスクをより警戒していた。そのため、CPIが事前予想を下回ると金融市場は大きく反応したのである。先行きの米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ見通しの下方修正を受けて、米国市場でドル円レートは、1ドル137円台から一時134円台まで円高が進んだ。利上げ懸念の緩和で米国株も上昇した。

CPI統計を受けても、14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.5%の利上げが実施されるとの金融市場の見方は揺らいでいない。しかし金融市場では、フェデラル・ファンド(FF)金利先物はCPI統計発表後に、来年2月、3月の2回のFOMCでそれぞれ0.25%の利上げが実施される可能性を50%以上織り込んだ。統計発表以前は、0.5%の利上げが織り込まれていた。

今年12月に0.5%、来年2月、3月にそれぞれ0.25%利上げが実施され、その後は利上げが見送られる場合には、FF金利のピーク(ターミナルレート)は4.75%~5.0%となる。

0.25%の利上げ観測が金融市場の転換点に

ただし、金融市場は今回のCPI統計だけでなく、14日のFOMCの結果と合わせて、先行きの金融政策の見方を固めることになる。FOMCでは、声明文、議長記者会見、参加者による先行きの政策金利見通しの3点が注目される。前回9月の見通しでは、来年末の政策金利見通しの中央値が4.6%であった。パウエル議長は、今回この見通しが引き上げられる可能性を示唆しており、5%強程度になると見込まれる。

金融市場が次の利上げ幅が0.25%と確信した時点で、米国の長期金利はさらに低下、為替市場ではドル安トレンドに明確に転じるとみておきたい。FOMC声明文とパウエル議長の記者会見で0.25%の利上げが示唆される場合には、CPI統計と合わせて金融市場は次の利上げ幅が0.25%となることをほぼ確信し、金融市場の大きな転換点になるだろう。

ドル円レートは円高方向に大きく動き始めるか

ただし、今回のFOMC声明文とパウエル議長の記者会見で0.25%の利上げが強く示唆される可能性は高くないだろう。むしろFRBは来年の利下げを織り込む金融市場をけん制するのではないか。早すぎる利下げ期待で長期金利が低下し、株価が上昇すれば、その分、FRBの利上げ効果が削がれてしまうためだ。

インフレ率が低下方向に転じつつある可能性は高いものの、なおFRBの物価目標の2%まで着実に低下していくとの展望を持てるほどではない。こうした中でFRBが0.25%まで利上げ幅を縮小させる考えを固め、それが金融市場の大きな転換点につながるためには、物価指標の落ち着きに加えて、雇用統計などで景気情勢の一段の下振れを確認する必要があるのではないか。

それは個々の経済指標の出方次第で不確実性は高いものの、遅くとも2月、あるいは3月のFOMCでは、FRBが0.25%まで利上げ幅を縮小させる考えが示唆されると予想したい。それを受けて、ドル円レートは円高方向に大きく動き始める可能性があるだろう。

(参考資料)
「米FRB、来年3月に利上げ停止との観測 CPI受け 短期金融市場」、2022年12月14日、ロイター通信

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。