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ECB、BOEは利上げ幅を0.5%に縮小させFRBに足並みを揃えた

12月15日に欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(BOE)はともに、0.5%の利上げを実施した。いずれも前回会合までの0.75%から利上げ幅を縮小させた。前日14日には米連邦準備制度理事会(FRB)が0.5%の利上げを実施しており、それに足並みを揃えた形である。主要中央銀行の利上げ幅の主流は、従来の0.75%から0.5%に移ってきた。

ただしECB、BOEともに、消費者物価指数と金融引き締めの表現についてはそれぞれ、「あまりに高過ぎる」、「強力」とタカ派的な表現を維持しており、市場が先行きの利上げ停止や利下げ期待を早期に強めることを警戒した情報発信を行っている。ECBのエコノミストの最新見通しでは、総合CPIとコアCPIは少なくとも2025年まで、ECBが目標とする2%を上回り続ける。

ECBは今回の理事会で、2023年3月から保有資産を減らす「量的引き締め(QT)」を進めるとし、2023年2月の次回会合でその詳細を決める考えも示している。

FRBの利上げ幅縮小は他の中央銀行には朗報

各国中央銀行の金融政策は、それぞれの国内経済、物価情勢を踏まえて独自に実施されるべきものだが、実際には、FRBの政策姿勢に大きく左右される。各国共に歴史的な物価高に苦しむ中、対ドルでの自国通貨安は物価高を加速させてしまう。そこで各国中央銀行は今春以降、金融政策の独自性を捨てて、米国の利上げ幅に合わせた金融政策を行ってきた面がある。

ところが、米国の金融政策に合わせた利上げのもと、自国経済が犠牲になってしまう面がある。特に米国以上に景気情勢が厳しい欧州では、その傾向が強い。欧州の中央銀行は、国内経済の安定と通貨の安定の間で深刻なジレンマを抱えたのである。そこで10月にワシントンで開かれたG7財務相・中央銀行総裁会議では、他国にも配慮した金融政策を米国に求める声が高まった。先進国が米国の金融政策に注文を付けるのは異例なことである。

こうした他国の要請を受け入れたというよりも、米国の経済・物価情勢の変化を踏まえて、FRBが独自に利上げ幅の縮小を決めた。これは、他国にとっては朗報となり、通貨安リスクを目立って高めることなく、ECB、BOEは米国に合わせて利上げ幅を縮小できたのである。

最短では来年年初に世界の潮流は0.25%の利上げとなる

他方、米国では物価上昇率の鈍化傾向に加えて、個人消費にも下振れが見られ始めている。最短では、来年2月の米連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBは利上げ幅を0.5%から0.25%へとさらに縮小する可能性がある。そして、他の主要中央銀行の利上げ幅もそれに追随し、0.25%の利上げ幅が世界の潮流となっていくだろう。

物価上昇リスクの低下に合わせた利上げ幅の縮小は、世界経済の安定にはプラスであるが、それによって来年の世界経済が顕著な減速あるいは景気後退を免れると考えるのは楽観的過ぎよう。

既に今までの急速な利上げが遅れて経済に大きな打撃となる可能性があることに加え、物価高が定着してしまうことを警戒する姿勢は、FRBを中心に主要中央銀行の中で根強いとみられる。そのため、景気減速がより明確になってからも利下げに転じるタイミングが遅れる、あるいは利下げのペースがかなり緩やかとなることで、景気の悪化を加速させてしまう可能性があるだろう。

ECBの先行きの利上げ幅縮小には不確実性が残る

ところでECBのラガルド総裁は15日の理事会で、政策決定を巡って0.75%の利上げを求め、0.5%の利上げ幅に反対するメンバーに対して、次回会合での0.5%の利上げを連続して行うことを提案した、とロイター通信は報じている。

ラガルド総裁は理事会後の記者会見で「現時点で入手されている情報に基くと、次回会合と、おそらくその次の会合で、さらに0.5%ポイントの利上げが決定されると予想される」と表明している。これは経済指標次第で「会合ごとに」利上げ幅を決定するというECBの方針に反する異例の発言であり、報道されている総裁の提案内容と整合的であるようにも見える。

この点を踏まえると、ECBについては、仮にFRBが来年に0.25%に利上げ幅を縮小しても、それに直ぐに追随しない可能性がある。FRBを上回る利上げ幅での利上げをECBが続ける場合、それは対ドルでのユーロを一段と押し上げることになるだろう。しかしそうした姿勢は、景気見通しを悪化させ、金融市場の不安定性を高める可能性もある。

仮にラガルド総裁が0.5%の利上げを続ける口約束をタカ派のメンバーにしたとしても、実際の将来の政策は、FRBの政策、経済、物価情勢、為替動向で決まってくるため、そうした口約束が果たされるとは限らないだろう。

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。