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コアCPIの3か月前比年率換算は3月にも2%の物価目標まで低下か

米労働省が1月12日発表した2022年12月の消費者物価指数(CPI)は、前月比0.1%低下した。燃料費が前月比-16.6%の大幅下落となったことが、全体の指数を押し下げている。前年同月比では+6.5%となったが、昨年6月の+9.1%から6か月連続での低下となった。

また、食料・エネルギーを除くコア指数は前月比+0.3%、前年同月比+5.7%となった。前年同月比の低下は3か月連続となり、物価上昇率の低下傾向が明らかになっている。

中古自動車の価格が前月比-2.5%と大幅下落の傾向が続く一方、新車の価格も前月比-0.1%と下落に転じた。食料・エネルギーを除く財のコア指数は、前月比-0.3%と、基調的な財の価格は全体としては既に下落傾向に転じている。

他方、全体の物価に遅れて動く傾向がある家賃は前月比+0.8%と高めの上昇となった。その結果、食料・エネルギーを除くサービスのコア指数は、前月比+0.5%上昇と、なお高めの上昇率を維持している。ただし、家賃を除けば、サービス価格の上昇ペースにも鈍化傾向が見られており、12月の上昇率は前月比+0.25%と昨年の前月比平均の半分近くまで低下してきている。一方、住宅市場は調整色を強めており、高騰が目立った家賃についても、住宅需要の急激な縮小を受けて低下に転じる兆しも出始めている。

また、サービス価格に影響を与える賃金の上昇率についても、雇用統計では鈍化傾向が目立ってきた。米連邦準備制度理事会(FRB)は、労働市場のひっ迫と賃金上昇に根差すサービス価格の上昇率高止まりを警戒しているとみられるが、今後は、急速な利上げによる成長ペースの鈍化、労働需給の緩和傾向を映して、賃金、家賃、サービス価格全体の上昇率の鈍化傾向がより目立ってくるだろう。

12月のコア指数は3か月前比年率換算で+3.1%と1年以上ぶりの水準にまで低下している。コア指数が前年同月比でFRBの物価目標である2%まで低下するまでにはなお時間を要するが、3か月前比年率換算で見れば、3月にも2%程度まで低下すると予想される。そうなれば、2%の物価目標の達成が視野に入ったとして、FRBは利上げを打ち止める可能性が高まるだろう。

2月は0.25%への利上げ幅縮小が見込まれる

今回の12月分CPIが物価上昇率の低下傾向を裏付けたことで、2月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、利上げ幅が0.25%まで縮小される可能性が高まったと考えられる。2月、3月のFOMCでそれぞれ0.25%の利上げが実施された後、物価上昇率の低下を確認して、FRBは利上げを打ち止めることが見込まれる。その場合、政策金利は4.75%~5.0%でピークに達することになる。

2%の物価目標の達成が視野に入ってくる一方、景気減速の兆候がより広がれば、FRBは今年後半にも利下げに踏み切るだろう。現時点ではFRBは年内の利下げを織り込む金融市場を強くけん制しているが、最終的には年後半に合計で0.5%の利下げを見込む金融市場の予想に軍配が上がるように見受けられる(コラム「 米金融政策の見通しを巡り当局に挑む金融市場 」、2023年1月12日)。

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。