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大幅利上げを続けたBOEとECB

英国中央銀行(BOE)と 欧州中央銀行 (ECB)は2月2日、ともに0.5%の大幅利上げを決めた。米連邦準備制度理事会(FRB)は前日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%の利上げを決め、前回の0.5%から2会合連続で利上げ幅を縮小させた。BOEとECBはこれに追随せず、大幅利上げを続けたのである。

対ドルでの自国通貨安を回避するため、昨年は多くの主要中央銀行がFRBの利上げ幅に合わせて金融引き締めを行っていた。年明け後に、このように欧米で利上げ幅に乖離が生じた背景には、両地域での物価環境の違いがある。米国では食料・エネルギーを除く基調的な消費者物価の上昇率に鈍化傾向が明らかになっているが、英国及びユーロ圏では、コアの消費者物価上昇率にまだピーク感が見られていない。

暖冬の影響によって当初懸念されていた深刻なエネルギー不足を回避できる見込みとなり景気の下振れリスクがやや低下していることも、ECBが今回大幅利上げを決めた背景にある。さらに、昨年のECBの利上げ開始はFRBに数か月遅れており、政策金利の水準が、米国と比べてもなお十分に引き締め的でないとの判断も、大幅利上げ継続の背景にあるだろう。

FRBは早ければ3月が最後の利上げとなる可能性があるが、BOE、ECBの大幅利上げはその後も続き、それが世界経済の下振れリスクを高めることも考えられる。

金融市場は利上げの終了が近いことを予想

ただし金融市場は、FRBと同様に、BOE、ECBについても利上げの終わりが近いと考えている。BOEの利上げは2021年12月から10回連続であり、政策金利は4.0%と2008年以来の水準に達した。金融市場は政策金利のピークは4.25%~4.5%と織り込んでおり、次回会合での利上げが最後になる、との見方をしている。さらに、年末までには利下げが実施され、利下げ局面は2024年も続くと予想されている。

ECBの政策金利(中銀預金金利)は今回の利上げで2.5%と、2008年以来の高水準に達した。ECBは声明で「政策委員会は次回3月の政策決定会合で再び50ベーシスポイント(0.5%)の利上げを実施する意向だ」とし、さらに「それから、その後の金融政策の道筋について検証する」と述べている。次回会合での利上げ幅を明示するのは異例である。今回0.75%の利上げ継続を主張するタカ派のメンバーに対して、2回連続での0.5%の利上げを約束することで、0.5%の利上げへの賛成を取り付けたことが背景なのではないか。ラガルド総裁は、次回0.5%の利上げの予告について、変更不可能ではないものの、実現する可能性が極めて高いと述べている。

金融市場は3月の0.5%の利上げ後も利上げは継続すると予想している。ただし政策金利のピークの水準は3%台前半が織り込まれており、5月の理事会で利上げが終了するとの見通しである。

主要中銀が容易に本格的な金融緩和に踏み切らないことが世界経済のリスクに

昨年には、歴史的な物価高騰、ドル急騰を受けて世界同時の大幅金融引き締めが実施された。足元では物価上昇率にも鈍化傾向が見られ始め、各国中央銀行の金融引き締め姿勢にも変化が現れ始めている。しかし、そのことが、世界経済の見通しを一気に好転させることはないだろう。

金融引き締めの傾向はなお継続しているうえ、FRB、BOE、ECBともに、物価高に対する警戒は引き続き強い。そのため、この先、一段の物価上昇率の低下と景気減速が見られるとしても、容易には本格的な金融緩和には踏み切らないだろう。そのことこそが、年央から年後半にかけて世界経済の下振れリスクを高めることにつながる、と見ておきたい(コラム、「 世界経済は本格的な景気後退入りを免れるか:IMFは23年成長率見通しを上方修正 」、2023年1月31日)。

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。