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中国はドローン、半導体などのロシア向け輸出を拡大

米国政府は、中国がロシアに対して軍事支援を検討しているとの情報を得たとして、中国にそれを思いとどまるよう求めている。ただし、軍用品ではないものの、軍用品に転用可能な軍民両用品や兵器製造に使われる部品・材料の供給といった、いわばグレーゾーンの輸出は、既に相当分行われている可能性があるだろう。

先進国による制裁対象となっていながらも、ロシアが輸入した製品は、昨年3~11月で124億ドル相当に上った、と31か国の税関データを分析したブリュッセルのシンクタンク、ブリューゲルが報告している。

また、米首都ワシントンに本部を置く非政府組織「自由ロシア財団」はその報告書で、「中国が他を大きく引き離してロシアにとって最も重要な貿易相手国となった」として、貿易拡大を通じて、中国がロシアを経済的に支援していることを示している。同報告書は、自由ロシア財団が入手した4,000万件の税関記録に基づいて、ロシアの貿易の実態に光を当てたものだ。

報告書によれば、ロシアは中国からの輸入を大幅に増やしており、昨年3~9月のロシアの輸入のうち、中国からのものが約36%を占め、2021年の同時期の約21%から大幅に上昇した。一方、中国は原油、天然ガスなどエネルギー関連のロシアからの輸入を拡大させている。

また報告書のデータは、中国がロシアに対して、軍事目的に転用可能な一部重要技術の供給国となったことを示している。中国は昨年、ロシアに対して330万ドル相当のドローン(無人機)を輸出している。

またロシアは昨年、半導体とマイクロチップの輸入を約34%増やした。最大の供給元は中国である。先進国はこうした製品のロシアへの輸出を制裁対象としたものの、中国やその他の国からの輸入は大幅に増加している。

またロシアは、トルコやカザフスタン、キルギスタンからも半導体の輸入を増やしている。こうした国は国内では半導体を製造できないが、輸入された半導体をそうした国からロシアは調達している模様だ。

ウォールストリート・ジャーナル紙が米非営利団体C4ADSから入手した税関の記録には、中国国有の防衛企業が航法装置や電波妨害技術、戦闘機部品をロシアの国有防衛企業に出荷していることが示されている。ロシアが昨年の侵攻後に輸入した軍民両用品のほとんどは中国から輸入されたとされる。

先進国に残された手段は外交力か

中国は、ロシアに対して軍民両用品の主要輸出国である一方、ロシアは、先進国が輸出規制の対象とした製品を、また、トルコやアラブ首長国連邦(UAE)などの国々を経由して調達している。

現在、欧米諸国は、UAEなど湾岸諸国に対して、制裁対象となった製品のロシアへの輸出を自粛するように強く求めているが、交渉は難航している模様だ。UAEは、2022年にロシアへのマイクロチップの輸出を160万ドルから2,430万ドルへと実に15倍に増やした。他方、湾岸諸国は昨年、ロシアに対して158機のドローンを輸出している。

ロシア経済や財政環境はかなり厳しさを増しているとみられるが、それが直ちに戦争継続能力を奪う訳ではなさそうだ。他方、先進諸国が、ロシア経済に追加的な打撃を与えることができる制裁の手段も尽きてきている。

そうした中、ロシア経済に大きな打撃を与え、戦争継続能力を制限できる方策は、制裁に参加していない国からロシアへの制裁対象商品や軍民両用品の輸出を抑えることだ。

そのためには、制裁に反対するロシア寄りの国々を説得していく他はない。先進国にとって残された手段は、まさにそうした国々を動かす外交力になっている。

(参考資料)
"West presses UAE to halt suspected sanctions-busting trade with Russia", Financial Times, March 2, 2023
"China Aids Russia's War in Ukraine, Trade Data Shows(中国が軍用品でロシア支援 貿易データで発覚)", Wall Street Journal, February 5, 2023
"Russia Boosts China Trade to Counter Western Sanctions(ロシア、対中貿易が急増 制裁の限界浮き彫り)", Wall Street Journal, January 31, 2023

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。