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自民党参院は困窮子育て世帯への子ども1人あたり5万円の現金給付を提言

自民党は3月17日までに追加の物価高対策の提言をまとめる。これを踏まえて政府は、3月末までに具体策を決定する方向だ。自民党内では、これまで直接的な支援の対象外となっていたプロパンなどのLPガス利用者の負担を軽減するための支援策や、卵や肉などの食料品価格を抑えるための飼料価格対策などを盛りこむ方向で、検討が進められている。

こうした中、与党の一部あるいは野党からも、子育て世帯への給付の実施を求める声がにわかに高まってきた。子育て世帯への給付は今までも繰り返されてきた既視感の強い対策であり、また「ばらまき」的な要素がある施策だ。ただしそれがどの程度ばらまき的な政策になるのかは、所得制限の程度によって決まるだろう。

自民党の参院は10日、困窮子育て世帯への子ども1人あたり5万円の現金給付を行う施策を提言した。提言には、困窮子育て世帯への食料品等支援を行う自治体・NPO等の支援、地方創生臨時交付金の追加配分、も含まれた。

他方、公明党は、所得が少ないひとり親世帯や住民税非課税の子育て世帯を対象に、子ども1人あたり5万円を「特別給付金」として、再び支給すべきとの考えを示している。立憲民主党も、低所得世帯に対して、子ども1人あたり5万円を4月末までに給付する法案を提出した。

年収300万円未満世帯での子ども一人当たり5万円給付でGDP763億円押し上げ

18歳以下の子供への5万円給付で、仮に所得制限がない場合、給付の総額は9,600億円程度になると考えられる。給付の対象とする困窮世帯、低所得世帯を仮に年収300万円未満とすれば、それは全世帯の31.8%に相当する(厚生労働省「2021年国民生活基礎調査の概況」)。その際には、給付の総額は3,053億円程度となる。

さらに一時的な所得のうち消費に回される比率が内閣府の試算に基づいて25%程度とすれば、この給付は個人消費及びGDPを763億円程度押し上げる計算となる。年間GDPの0.01%に相当する規模だ。

物価高対策は的を絞った弱者支援に

これは景気浮揚効果としては小さいと言えるが、そもそも景気浮揚効果を狙って追加の物価高対策を実施することは適切ではないだろう。物価高が個人消費の逆風となっていることは確かであるが、実際の個人消費は比較的安定しており、決して緊急事態などではない。この先は、感染に関わる制限の緩和やインバウンド需要の高まりも、個人消費を相応に押し上げることが期待される。

いたずらに規模を追求して景気刺激を狙う必要はないだろう。それは、財政環境を一段と悪化させるという弊害の方が大きい。ガソリン補助金など、時限措置として導入された今までの物価高対策も、予想外に長期化し出口が見えなくなっている。そのため、財政負担は高まる一方であり、それは将来にわたる国民負担となり、経済活動に逆風となってしまう。

追加の物価高対策を実施するのであれば、物価高による打撃が特に大きい家計、企業に的を絞って支援する施策とすべきだ。この点からも、子育て世帯への給付を仮に実施するのであれば、厳格な所得制限を設け、支援対象を低所得世帯に限定するべきだ。

(参考資料)
「"困窮子育て世帯"への「5万円給付」 自民・公明・立憲が検討も…実現性は?」、2023年3月11日、日本テレビニュース

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。