米国市場ではリスク回避と利上げ観測後退が同時進行
シリコンバレーバンク(SVB)の破綻がもたらしたグローバルな金融市場の動揺が収まらない。13日の米国市場では、ダウ平均株価は5日連続の下落となった。14日の東京市場では、日経平均株価が一時700円を超える大幅下落を記録している。
13日の米国市場では銀行株の大幅安が目立っており、取引き停止も続出している。特に地銀の株価下落が著しく、大手行、主要地銀で構成されるKBW株価指数は一時14%と、取引時間中としてはコロナショック時の2020年3月以降最大の下落幅となった。
米国金融市場の異常さを最も反映しているのが、2年国債の利回りの大幅下落である。13日には一時0.65%下落したが、1日の下落幅としては1980年代初頭以来であり、1987年のブラックマンデー時を上回った。
わずか3営業日の間に2年国債の利回りは1.1%程度も下落し、5%台から一時3%台となった。このかなり異例な2年国債の利回りの急低下は、金融市場での急速なリスク回避傾向の高まりを映した安全資産への逃避と、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ観測の後退、という2つの要素が重なったものだ。FF金先市場では、7月までに0.25%の利下げ、8月までに合計で0.5%の利下げ、年末までに合計で0.75%の利下げがおおむね織り込まれている。SVBの破綻はFRBの金融政策の見通しに、短期間で非常に大きな修正をもたらしているのである。
リーマンショック時を意識したバイデン大統領の演説
バイデン大統領は13日にSVBの破綻について演説を行い、国民に直接説明を行った。その内容は、2008年9月のリーマンショック時の経緯を強く意識したものだ。
バイデン大統領はまず、米国の銀行システムは安全で、銀行預金が戻ってこなくなるリスクはないことを国民に訴えた。預金が取り戻せないとの不安から預金の取り崩しの動きが加速したことが、SVBを流動性危機に陥れ、破綻に導いたことを踏まえたものである。大統領がこうした呼びかけを直接国民に行うこと自体異例であり、銀行危機の最中にあるかのような印象を与えるものだ。
当局はSVBと株主(投資家)を救済しない一方、預金を全額保護する異例の措置を通じて預金者を救済した。それは、銀行破綻の際に、預金保険でカバーされる上限25万ドルを上回る預金が戻ってこないとの不安が預金の取り崩しを加速させ、連鎖的な銀行破綻が起こることを回避する狙いがある。
他方でバイデン大統領は、預金の全額保護は国民の税金ではなく、銀行が米連邦預金保険公社(FDIC)に支払う手数料によって賄われることを強調した。リーマンショック後には、銀行の救済に国民の税金が投入され、それが国民からの強い反発を招いたことを意識したのだろう。
他方で、SVBの経営陣は、他社に買収されても破綻の責任を取って経営から退くこと、SVBの株式に資金を投じる投資家は、株価の大幅下落を通じて破綻の責任を負うことが強調された。さらにバイデン大統領は、銀行規制の強化を検討する考えも明らかにしている。トランプ前共和党政権下で進んだ金融規制の緩和の動きを巻き戻す考えだ。
米国経済の悪化が信用不安、市場の動揺の第2弾に
SVBの預金全額保護やFRBによる銀行への特別な資金供給、そしてバイデン大統領の演説といった異例の対応にもかかわらず、金融市場の安定は回復できていない。
この先、経営基盤がぜい弱な米国の中小、中堅銀行の経営不安や破綻が続く可能性はあるだろう。他方、リーマンショック後の国際的な銀行規制の強化の影響から、大手の銀行の経営の安定性は揺らがないとみられることから、大手行の経営不安は生じないだろう。当面のところは、金融市場はやや安定を取り戻す流れ、と見ておきたい。しかし、いずれ、信用不安、市場の動揺の第2弾が生じる可能性があるのではないか。
先行き注意しておかねばならないのは、大手行の経営不安が広がる本格的な銀行危機の発生ではなく、経済の悪化を背景に中小・中堅銀行の経営不安と証券市場の混乱とが重なるリスクなのではないかと思われる。
大幅利上げの影響によって、この先米国経済の減速、悪化が鮮明となれば、それは銀行の貸出債権の焦げ付きを生じさせ、銀行経営に対する新たな不安を金融市場で高めるだろう。
さらに経済の悪化は企業の信用リスクを高める。これが、既往の金利上昇の影響と重なることで、企業の負債である証券、例えばハイイールド債、証券化商品などの価格調整を生じさせる可能性があるだろう。銀行不安と証券市場の動揺が重なる、新たな信用不安となってグローバル金融市場を大きく動揺させる可能性が考えられるのである。この観点から特に注目しておきたいのは、この先の米国景気動向である。
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