&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

IMFは世界経済見通しを下方修正(2023年+2.8%)

国際通貨基金(IMF)は4月11日に発表した世界経済見通しで、銀行不安や金融市場の引き締まりといった金融面での問題が、世界経済の大きな下振れリスクになるとの警鐘を鳴らした。

世界の成長率見通しは2023年が+2.8%、2024年が+3.0%とされた。1月時点での前回予測からそれぞれ0.1ポイント引き下げられた。成長率の修正幅は小さかったものの、前回予測以降に生じた欧米の銀行不安や金融市場の動揺によって、IMFの世界経済の認識は、わずか数か月の間にかなり慎重になった感がある。

物価見通しについては、原油などの商品価格の下落を背景に、世界の消費者物価上昇率は2022年の8.7%から2023年は7.0%に鈍化すると見込んでいる。2023年の消費者物価上昇率はIMF加盟国の約76%で2022年の水準を下回る見通しだ。また、2024年の消費者物価上昇率は4.9%と、さらに低下が見込まれる。多くの国で物価上昇率が目標水準まで戻るのは、2025年以降となる見込みである。

金融混乱の悲観シナリオでは2023年成長率は1%まで下振れも

IMFのチーフエコノミスト、ピエール・オリビエ・グランシャ氏は、「過去1か月半の金融混乱の結果、リスクは下方に大きく傾いている」とし、「今はコントロールできているが、金融環境が大幅に悪化するようならば、より急激で深い景気下振れにつながることを懸念している」と悲観色の強い説明をしている。

今年の成長率見通しの+2.8%は、金融面での逆風が生じないことが前提であるが、金融部門でストレスが強まる、現実的でありそうな代替シナリオの下では、銀行の融資抑制などによって2023年の成長率が約2.5%にまで低下し、先進国の成長率は1%を下回ることになる。この2.5%という成長率は、コロナ問題が生じた2020年、リーマンショック時の2009年を除けば、2021年以来の低い水準となる。

他方、確率を25%程度とする大規模な信用収縮が生じる悲観シナリオのもとでは、2023年の成長率は2%を下回る。2%割れは1970年以降で5回しかない。さらに15%の確率で生じるより悲観的なシナリオのもとでは、成長率はわずか1%にまで低下する。

この先は、金融環境の悪化の程度次第で、世界の成長率は大きく下振れる余地がある。世界経済のリスクは、コロナ問題や物価高騰から金融情勢の悪化へと移ってきた感がある。

米銀の約9%が事実上の資本不足に陥っているとの試算

IMFが世界経済見通しと同時に発表した国際金融安定化報告書(GFSR)でも、「世界の金融システムを揺るがせた金融の混乱について、リスクがすべて去ったと宣言するのは時期尚早であり、銀行の破綻は経済成長の重しとなる公算が大きい」との見方が示された。

同報告書を取りまとめたIMF金融資本市場局のトビアス・エイドリアン局長は、「最近の銀行不安は、大手銀行が破綻の危機に瀕した約15年前のリーマンショック(グローバル金融危機)よりも、1980年代の米貯蓄貸付組合(S&L)危機に類似しているとしている。

同報告書では、米銀が保有する米国債およびその他債券の含み損を自己資本から控除すると、資産100億-3,000億ドル規模の中堅以上の米銀の約9%が事実上の資本不足に陥っていると計算している。

筆者の計算でも、米銀の実質的な自己資本比率は公表値よりも2%以上低く、リーマンショック直前の水準にまで下がっている(コラム「 貸出抑制が招く米国の銀行不安第2ラウンド:債券含み損が実質的に自己資本を毀損 」、2023年4月4日)。

中小銀行の破綻懸念とノンバンクの問題が複合された銀行不安第2ラウンドに

また同報告書は、商業用不動産市場が金融環境に与える影響についても警鐘を鳴らしている。商業用不動産は多くの国で価格が著しく過大であり、最近の混乱を受けて銀行などが一段と信用を収縮させるリスクにさらされている、と指摘している。信用収縮は資産価格の下落を加速させ、両者間で負のスパイラルを生じさせる恐れがある。

さらに同報告書は、昨年10月に、いつでも解約可能なオープン型投資ファンドが金融市場を混乱させるリスクについて指摘していた(コラム「 米国を襲うファンド危機:金融危機はいつも違った顔で現れる 」、2023年4月5日)。

3月に銀行不安が生じたことも踏まえて、今回は、投資ファンドに加えて、年金基金、保険会社、ヘッジファンドなどを含むノンバンクの金融リスクについて、改めて分析を行っている。リーマンショック後の低金利環境と銀行規制強化の影響から、ノンバンクの資産規模は急増し、現在ではグローバルの金融資産全体の半分近くを保有しているとみられる。その分、ノンバンクは金融面での大きなリスクとなっているのである。

リーマンショック後の超低金利環境の下で、投資リターンを高めるために、投資ファンドなどノンバンクは、期待リターンの高い高リスク資産に積極的に投資を行った。この先、利上げと信用収縮の影響で経済情勢が悪化していけば、不動産市場の悪化や企業の経営悪化などを映して、ハイイールド債、証券化商品の価格の下落が顕著になるだろう。

それは投資ファンドを中心に、ノンバンクの投資リターンを低下させる。それが投資家の解約を促し、換金のためのノンバンクの金融資産の投げ売りが、金融市場を大きく混乱させる可能性があるだろう。

そうした結果、この先米国では、中小銀行の破綻懸念とノンバンクの問題が複合された銀行不安の第2ラウンドが生じる可能性があるのではないか。これは、世界経済にとっても強い逆風となるはずだ(コラム「 米国を襲うファンド危機:金融危機はいつも違った顔で現れる 」、2023年4月5日)。

(参考資料)
"IMF Trims World Growth Outlook as Financial Risks Raise Pressure", Bloomberg, April 11, 2023
"IMF Warns It's Too Soon to Sound All-Clear on Financial Turmoil", Bloomberg, April 11, 2023

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。