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3月コアCPIは事前予想通り

4月12日に米国労働省が発表した3月CPI(消費者物価)は、総合指数で前月比+0.1%、前年同月比+5.0%と事前予想を下回った。前年比上昇率は2月の同+6.0%から一気に1.0%ポイント低下したが、これはロシアによるウクライナ侵攻を受けて、1年前に原油など商品市況が大幅に上昇したことの反動である。

他方で食料・エネルギーを除くコアCPIは、前月比+0.4%、前年同月比+5.6%と事前予想通りとなった。この前月比上昇率は過去半年の平均値に近く、基調的な物価上昇圧力は緩和されつつも引き続き根強いと言える。

3月CPIが事前予想通りの結果となったことから、5月2・3日の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)では、足元で金融市場が想定しているように、0.25%の追加利上げが実施される可能性が一層高まったと言えるだろう。

利上げの最終局面を示唆した3月FOMC議事録

12日には、3月21・22日に開かれたFOMCの議事要旨も公表された。当日は、全会一致で0.25%の利上げが決定されたが、直前に発生した米銀の破綻などの銀行不安を受けて、FOMC参加者のうち数人が政策金利据え置きを検討したと記述されている。他方で一部の参加者は、銀行不安がなければ0.5%の利上げを検討したと表明した。

声明文では、「(金利の)継続的な引き上げが適切になると予想している」との従来の文言が削除され、「委員会は幾分の追加的な政策引き締めが適切になると想定している」との文言が新たに加えられた(コラム「 FRBの利上げは5月で終了か:3つの使命のトリレンマ状態が続く金融政策運営 」、2023年3月23日)。これは、5月のFOMCで0.25%の小幅な利上げを実施すること、とともに利上げが最終段階にあることを示唆するものと考えられる。

議事要旨では、銀行不安が経済に与える影響を踏まえ、年内に緩やかな景気後退が始まることを予想するスタッフの見方も示された。実際、足元では銀行の貸出は加速的に減少しており、景気の下方リスクは高まっている。

このような点を考慮すれば、5月のFOMCでの政策金利の0.25%引き上げが、FRBによる歴史的な大幅利上げの最後となる可能性が相応にあるだろう。仮に6月にも利上げが継続するとしても、もはや利上げが最終局面にあり、政策金利の最終到着点(ターミナルレート)が5%台半ば以下となる可能性が高まってきたと考えられる。

銀行不安下での3月の0.25%利上げ決定の舞台裏

米連邦準備制度理事会(FRB)は、3月22日のFOMCで、0.25%の利上げ(政策金利引き上げ)を決めたが、欧米で銀行不安が生じた直後に利上げを決めたことが本当に正しかったかどうかは、後に検証されることになる。銀行不安を受けて、FOMC内では利上げ見送りも検討したことをパウエル議長は記者会見で明らかにしており、それは議事要旨でも確認された。利上げがかなり難しい判断であったことは確かだろう(コラム「 FRBの利上げは5月で終了か:3つの使命のトリレンマ状態が続く金融政策運営 」、2023年3月23日)。

ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、そうした難しい判断となった3月FOMCの舞台裏を報じている。同紙によれば、FOMCで投票権を持つ参加者らが0.25%の利上げで意見が一致したのは、FOMCでそれを決めた2日前だったという。通常は、会合前1週間の時点で政策決定はされている。

米リッチモンド連銀のバーキン総裁がWSJに語ったところでは、通常はFOMC会合の約1週間前にスタッフに対して、FOMCでの自身の発言テキストを書き上げるように指示するが、今回は、最終の決定が直前まで定まらなかったことから、FOMC直前までテキストを準備しなかったという。

市場の予想に合わせた面も

FOMCでの政策決定の2日前までは、2つのシナリオが準備されていた。3月は利上げを見送る一方、5月には利上げを再開する可能性を説明するか、あるいは3月に利上げを実施する一方、5月以降の利上げは金融情勢次第で不確実であることを説明するかであった。

最終的には3月22日のFOMCで0.25%の利上げが決定されたが、その決定を後押ししたのは、3月19日に、経営不安がささやかれていたファースト・リパブリック銀行に対して、大手11行が連携して300億ドルを預金する支援策に乗り出したこと、そして3月20日に、UBSによるクレディ・スイスの買収がまとまったことだったとみられる。

さらにもう一点重要だったのは、FOMCの直前に金融市場が0.25%の利上げを予想していたことだ。金融市場が予想している通りの決定を行えば、金融市場が混乱するリスクは小さい。

セントルイス連銀のブラード総裁は、利上げを見送ると、FRBが問題をかなり深刻に考えているというメッセージを金融市場に送り、むしろ金融市場を混乱させてしまう恐れがあった、と語っている。

しかし、米国経済・金融市場の大きな分岐点になる可能性もあった非常に重要な政策決定を、短期的な金融市場の悪い反応を恐れ、市場の期待に合わせたのだとすれば、それは問題ではないか。

(参考資料)
"Latest Fed Increase Came Down to the Wire. ‘That Was a Rough Weekend.' (FRB土壇場の決断、3月利上げの舞台裏)", Wall Street Journal, April 7, 2023

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。