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日本政府観光局は4月19日に、桜のシーズンとなった3月分の訪日外客数を発表した。それは、2月分を34.2万人上回る181万7,500人となり、コロナ前の2019年同月比で-34.2%と、2月のー43.4%を大きく上回るものとなった。

昨年10月の水際対策緩和をきっかけに、訪日外客数は急増した。今年2月には増加ペースが鈍り、当初の急増局面は一巡したかのように見えたが、3月には再び増加ペースが予想外に高まったのである。

コロナ前の2019年には訪日外客数の3割を占め、国別で最大であった中国からの入国者数が低位に留まる中にもかかわらず、わずか半年で2019年同月比7割近くまで入国者数が戻ったことは予想外であった。

さらに、中国からの入国規制については、既に緩和が始まっている。4月5日からは、中国本土からの直行便による全入国者に求めてきた、出国前72時間以内の陰性証明の提示が不要となった。さらに、新型コロナの感染症法上の分類を5類に引き下げる5月8日以降、接種証明の提示も不要となる。こうした水際対策の解除を受けて、中国からの入国者についても、遅れてこの先急速に増えることが予想される。

筆者は2月時点で訪日外客数及びインバウンド需要の推計を行ったが、3月分までの実績値と、中国からの入国規制緩和の影響を明示的に織り込んで、再推計を行った。

3月の訪日外客数が予想以上に増加したこともあり、先行きの推計値は大きく上方修正となった。コロナ前の2019年同月の水準を上回る時期は、2024年2月から2023年8月へと一気に半年前倒しとなった。今夏にも、コロナ前の水準を超える見通しとなったのである(図表)。

図表 訪日外客数の推計(2019年比)

さらに、訪日外客数の予測値と2023年10-12月期の外国人一人当たりの消費額に基づいて推計した2023年のインバウンド需要は、5兆9,458億円となった。2月時点の推計値4兆9,580億円から大きく上方修正となった。またこれは、2023年の(名目及び実質)GDPを1.07%押し上げる計算だ。

インバウンド需要はさらなる拡大のポテンシャルが大きく、日本経済の成長の大きな原動力となることが十分に期待されるところだ。そうした中で課題となるのは、海外からの外国人観光客を受け入れ、国内で消費を拡大させることへの供給制約をいかに緩和、解消していくかである。

それには、高付加価値化、地方への誘導、受け入れ国・地域の分散化による設備投資促進の3つが重要な戦略となる(コラム「 中国からの入国規制緩和でインバウンド需要は勢いづく:ポストコロナのインバウンド戦略の鍵は3つ 」、2023年4月18日)。さらに、コロナ禍で国内にシフトした日本人の旅行先を、迅速に海外に戻るように促し、国内でのホテル不足を緩和することも重要となるだろう。

今夏にも訪日外客数がコロナ前の水準を上回る見通しとなったことから、このような供給制約への対応はまさに喫緊の課題となってきた。

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。