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食料品価格と宿泊料の上昇が顕著

総務省が4月28日に発表した東京都区部4月の消費者物価指数(中旬速報値)は、事前予想を上回る上昇となった。生鮮食品を除くコアCPIは前年同月比+3.5%と、3月分の同+3.2%を大きく上回った。季節調整済前月比では、コア指数は+0.5%、生鮮食品とエネルギーを除く指数は+0.6%と大きく上昇した。この+0.6%という高い上昇率は、今回の物価上昇局面では今まで見られなかった水準である。

政策効果などにより、エネルギー価格の上昇には歯止めがかかっている。4月にエネルギー価格は前月比ー1.7%下落し、消費者物価(総合)の前年比上昇率を3月と比べて0.16%ポイント押し下げている。

4月の東京CPI上昇率を予想以上に上振れさせたのは、生鮮食品を除く食料品価格の上昇と宿泊料の上昇の2つだ。前者は4月の消費者物価(総合)の前年比上昇率を3月と比べて0.19%ポイント押し上げ、後者は0.10%ポイント押し上げた。4月の消費者物価の前年比上昇率が3月から予想外に加速したのは、主にこの2つによるものだ。

食料品価格の0.19%ポイントの押し上げのうち、0.07%ポイントと3分の1以上の寄与となったのは、菓子類の価格上昇だ。特にチョコレートは前年同月比+13.2%と価格上昇が目立っている。海外での食料関連市況の上昇は概ね一巡し、また円安による輸入品価格の押し上げ効果も縮小してきている。この点を踏まえれば、食料品の値上げの動きも先行きは弱まっていくことが予想されるが、現状ではコストアップ分を遅れて製品価格に転嫁する企業の動きが続いている。

宿泊料の上昇については、感染リスクの低下を映した国内旅行の回復、外国人観光客の増加を背景にしたものだろう。

コアCPIの前年比上昇率は夏場に低下傾向が顕著に

今回の東京都区部4月の消費者物価指数を用いて、全国の消費者物価を予想すると、4月のコアCPIは、前年同月比+3.4%と、3月の同+3.1%から再加速する形となる。

日本銀行は2023年度下期には、コアCPIの前年比上昇率が物価目標の2%の水準を下回るとの見方を示しているが、それに対する懐疑的な見方が広がる可能性があるだろう。

ただし筆者も、今年7月あるいは8月にはコアCPIの前年比上昇率の低下は顕著となり、11月あるいは12月には物価目標の2%の水準を下回ると予想している。さらに、来年の春闘で参照される最新値の1月分コアCPIの前年同月比は、+1%台前半まで低下すると予想する。今年1月の同+4.2%を大幅に下回ることで、賃金上昇率も今年から大きく低下し、物価と賃金の好循環によって2%の物価目標の達成に近づくとの見方は、大きく後退することになるだろう。

図表 全国消費者物価(コアCPI)の見通し

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。