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米国1-3月期成長率は事前予想を下回る

米国商務省が4月27日に発表した1-3月期GDP統計で、実質GDPは前期比年率+1.1%と前期の同+2.6%を大きく下回り、また事前予想の同+2.0%程度も下回った。

ただし、今回のGDP統計からは、米国経済が景気後退に陥った明確な兆候はまだ確認されない。成長率は事前予想を下回ったものの、全体としては米国経済の底堅さを示したものと考えられる。

1-3月期の実質個人消費は前期比年率+3.7%と高い増加率となった。前期に同+1.0%と低めとなったことの反動、という側面が強いが、寄与度は+2.48%と1-3月期の米国経済の最大のけん引役となった。

他方で、企業設備投資は前期比年率+0.7%と低い成長率となり、また、実質住宅投資は前期比年率-4.2%と8四半期連続のマイナスとなった。

成長率の押し下げに最も貢献したのは、実質民間在庫投資である。成長寄与度は前期比年率-2.26%と大幅マイナスとなった。ただし、在庫投資の大幅なマイナス寄与は、先行きの成長率にはむしろプラスとなる。企業が過少となった在庫積み増しのために、生産を拡大させる可能性があるためだ。

こうした点を踏まえると、今回のGDP統計は米国経済の底堅さを示したと評価できるだろう。

アトランタ連銀のGDPNowは4-6月期の経済活動の低迷を示唆か

GDP成長率の見通しを各種経済指標から随時更新するアトランタ連銀のGDPNowでは、統計発表直前の4月26日に1-3月期の成長率見通しが+1.1%に下方修正され、今回のGDP統計を正確に予測することになった。

前日の見通しは同+2.7%だった。直前になって成長率見通しを大幅に下方修正したということは、1-3月期の終わりの経済状況が下振れたことを意味し、4-6月期の成長率が下振れる可能性を示唆するものだろう。

4月28日に発表されたアトランタ連銀GDPNowの4-6月期GDP予測値では、同期の成長率は前期比年率+1.7%となった。数字は1-3月期からやや持ち直す形であるが、1-3月期の民間在庫投資の成長寄与の大きなマイナスの反動増によって成長率が上振れる姿にはなっていない。在庫を除く最終需要の弱さを示しているのである。

まだ初期段階の推計ではあるが、4-6月期の実質個人消費は1-3月期から減速する一方、非住宅建設投資は減少、住宅投資はマイナス幅を広げるなど、主要な需要項目は1-3月期から悪化する。輸入が減少することで全体の成長率が大きく低下することが回避されているが、表面的な数字以上に悪い内容だ。

これは、7-9月期には米国経済が後退局面に陥る可能性を示唆するものでないかと考えられる。

今回は企業部門が主導する景気後退となるか

3月に生じた銀行不安の影響、特に中小銀行による貸出抑制の影響が確認できるのは、4-6月期以降となり、先行きの米国経済の動向は依然として予断を許さない状況だ。年後半に景気後退局面に陥る可能性は、引き続き考えられるところだ。

歴史的な大幅利上げにもかかわらず、米国経済は景気後退入りを免れてきた。金利上昇によって金利に敏感な住宅投資、自動車購入など家計部門から米国経済は減速傾向を強め、景気後退に至るというのが通例であった。しかし、今回は、新型コロナウイルス問題によって経済活動はかく乱され、こうした過去の経験が成り立たない可能性がある。実質住宅投資は2年間にわたって減少を続けてきたが、それが他の部門に広がって景気後退を生じさせるには至っていない。

感染リスクの低下に支えられる家計部門ではなく、今回の局面では、金利の大幅上昇と銀行不安の影響が企業部門に打撃を与え、そこから米国経済が景気後退に至る、という通常とは異なる経路となる可能性を見込んでおきたい。

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。