ファースト・リパブリックバンク破綻観測
経営不振に陥っていた米中堅銀行ファースト・リパブリックバンクが、間もなく破綻し、米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置かれる、との観測が強まっている。その場合には、3月のシリコンバレーバンク(SVB)、シグニチャーバンクの破綻に次ぐ3行目の破綻となり、資産規模で見るとリーマン・ショック後で最大、史上2番目の銀行の破綻となる。
さらに、FDICの管理下に置かれるファースト・リパブリックバンクを、米金融大手JPモルガン・チェースやPNCファイナンシャル・サービシズ・グループなど数社が、入札を通じてファースト・リパブリックバンクの買収を検討していると報じられている。
同行が破綻となれば、それは3月の2行破綻の余波と言えるものであり、米国の銀行システムが再び不安定の度を強めているとは言えないかもしれない。しかし、度重なる破綻回避の試みがうまくいかなかったとすれば、それは同行の問題を超えた米国銀行全体の問題の深刻さを裏付けるものではないか。
決算では予想を上回る預金流出と収益悪化が確認された
サンフランシスコを拠点とするファースト・リパブリックバンクは、SVBが3月10日に経営破綻したことを受けて経営不安に陥った。顧客は数日のうちに約1,000億ドルの預金を引き出した。
その後、JPモルガンやPNCなど大手11行が、300億ドルの預金を同行に提供して救済を図ったが、うまくいかなかったのである。
4月24日には同行の1-3月期決算が発表されたが、純利益は前年同期比ー32.9%と予想以上に悪化した(コラム「 再び注目される米国地銀の経営問題:資産リストラの経済・不動産市場への悪影響に注意 」、2023年4月27日)。経営不安による急激な預金流出による利鞘の悪化が背景とみられる。
1-3月期の預金は前期比-40.8%と大幅に減少した。大手銀行による300億ドルの預金注入という救済策の影響を除けば、預金は前期比-57.8%とさらに大幅な減少となっていた計算だ。同行の株価は、25日の引け値で前日比-49.4%と一日でほぼ半減した。株価は、銀行不安が生じる前のわずか3%程度にまで下落し、経営不安が再び強まっていた。
自己資本比率の改善、流動性の確保を図るため、同行は最大で1,000億ドル(13兆4,000億円)相当の資産売却を模索している、と報じられた。これは、総資産2,330億ドルの4割以上の資産を売却するという大リストラ策であった。ただし資産売却で損失が生じないように、他行などに市場価格以上で資産を購入してもらう、一種の救済策であったと考えられる。そうした救済策に大手銀行などが応じなかったことで、ファースト・リパブリックバンクは破綻処理される方向になったと推察される。
銀行経営不安が再燃する可能性
入札を通じた同行の買収に名乗りを上げている銀行は、破綻処理によって損失が削減された同行を、破綻前よりも安く購入することを考えているのではないか。FDICは、ファースト・リパブリックバンクを買収する金融機関に資金支援もするとみられている。
買収に前向きとされるJPモルガンとPNCは、ともにリーマン・ショック時にも大手金融機関の買収で注目された銀行である。JPモルガンは2008年に大手投資銀行ベア・スターンズとワシントン・ミューチュアルを買収した。またPNCは、2008年にナショナル・シティバンクを政府の支援の下で買収し、その結果、昨年末時点で6番目の資産規模の銀行にまで成長した。
ファースト・リパブリックバンクの破綻は、3月に生じた米国の銀行不安がなお終わっていないことを裏付けるものとなった。この先、米国経済が減速を強めていけば、銀行が保有する貸出債権、あるいは証券の価値が下落することで、再び資本不足懸念が高まり、銀行経営不安が本格的に再燃する可能性があるだろう。
(参考資料)
"JPMorgan, PNC Bidding for First Republic as Part of FDIC Takeover", Wall Street Journal, April 30, 2023
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