金融システム問題と世界経済が議題に
5月11日から13日の日程で、G7(主要7か国)財務相・中央銀行総裁会議が新潟市で開かれる。これは、19~21日に広島市で開かれるG7サミット(首脳会議)での経済関連の議論に直接つながるものとなる。
前回4月12日に開かれた同会議では、金融システムの安定へ「適切な行動を取る用意がある」との共同声明が採択された。今回の会議でも、金融システムの安定維持が引き続き議論の中心となるだろう。
米国の銀行問題は、一時期と比べればやや落ち着きを取り戻しているように見えるが、1-3月期の銀行決算で一部の銀行から大量の預金流出が生じ、また収益環境が厳しさを増していることが確認されたことから、再び銀行不安が燻ぶっている。5月1日には資産規模で全米14位のファーストリパブリック・バンクは事実上破綻し、JPモルガンによる買収が決まった。
また、米国では4月28日に米連邦準備制度理事会(FRB)が、3月に破たんしたシリコンバレーバンク(SVB)に関する調査報告書を発表し、中堅銀行に対する規制及び監督の強化の必要性を主張している。G7の場でも、銀行規制と監督の強化が議論されるだろう。バーゼルⅢにおける流動性規制が銀行破綻を防ぐために十分であるかどうか議論されるのではないか。さらに米国ですでに始められている、ノンバンク(非銀行金融仲介機関)に対する規制、監督強化も議題となる可能性もある。
金融システム問題と関連して、世界経済も議論の対象となろう。今まで大きな議題となってきた物価高騰は最悪期を脱しつつあるように見えるが、他方で、世界経済のリスクは物価高騰から景気悪化にその比重を移している。
各国での大幅利上げの影響に加えて、足元での銀行不安の影響が注目されるところだ。経済と銀行・金融不安は悪循環に陥るリスクをはらんでいることから、それを回避する政策も議論されるのではないか。
新たな対ロシア制裁を導入か
G7財務相・中央銀行総裁会議での注目点には、ウクライナ戦争への対応もある。G7各国が、医薬品や農産物などを除くすべての対ロシア輸出を禁止することが議論される可能性がある。
今までとられてきたエネルギー関連輸入の禁止などの制裁措置は、ロシアが戦費調達の外貨稼ぎをすることを封じる狙いがあった。しかし、こうした制裁措置が期待したほどの成果を上げていないことから、今度は輸出側に焦点を当てた制裁措置を検討しているのだろう。それはロシアでの生産活動や消費活動に打撃となる。
しかし、先進国はすでに、半導体などハイテク製品の対ロシア輸出禁止措置をウクライナ戦争開始直後に打ち出したが、実際には対象となる製品は第3国を通じてロシアに入っている。また、先進国に代わって第3国がロシア向け輸出を拡大させていることから、輸出禁止措置は十分な効果を上げていないのである。
先進国の輸出禁止の対象を原則すべての製品に拡大しても、やはり制裁逃れが生じて、十分な成果は上げられないのではないか。ロシア経済・財政に大きな打撃となるのは原油価格の下落である。しかし、それは先進国がコントロールできないものだ。世界経済が悪化することで、原油価格は初めて大きく下落するだろう。
中国封じ込めを意識した経済安全保障政策
それ以外に議論されることが予想される経済関連のテーマは、いずれも中国への対抗を意識した、G7の経済安全保障政策の色彩が強いものだ。またそれは、グローバルサウス(南半球を中心とする途上国)を先進国陣営に組み入れることを狙った、政治色の強いものとなっている。
まず、新興・途上国の雇用創出などにつながる「質の高い直接投資」の促進が議論される見込みだ。これは中国の「一帯一路」戦略への対抗を意識したもので、途上国への融資ではなく、外国企業などによる直接投資でそれらの国々の自立を支援し、持続的な経済成長につなげる狙いがある。
さらに、政治的に対立する国への輸出入などを制限する「経済的威圧」に対抗するため、半導体などを確保するため供給網(サプライチェーン)を構築して連携を進めることも議論される。また、脱炭素化に貢献する「クリーンエネルギー」関連製品の加工や製造などの供給網については、資源国でもあるアフリカなどの低・中所得国が重要な役割を果たせるような環境を整備することも検討される。
途上国の債務負担を軽減する支援も、重要議題の一つとなる。米国での利上げとそれに伴うドル高が、途上国のドル建て債務、利払い負担を増加させており、途上国の債務問題は深刻度を高めている。
このようなテーマは、世界共通の経済的課題であるだけでなく、G7が主に中国への対抗を意識した政治色が強いものとなっている。さらに、関連する政策を通じて、中立的な姿勢を続けるグローバルサウスを先進国側の陣営に取り込む狙いもある。
グローバルサウスへの働きかけを再検討
ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、先進国の民主主義勢力、中・露を中心とする権威主義勢力、そして中立的な姿勢を維持するインドやアフリカ諸国などのグローバルサウスへと、世界は大きく3つに分裂した感がある。
米国も日本も、グローバルサウスの取り込みに奔走しているが、今のところは必ずしも成功はしていない。バイデン米大統領は3月に約120か国・地域が参加する第2回「民主主義サミット」を開催し、人権尊重、自由で公正な選挙などの民主主義の諸原則を確認した「民主主義サミット宣言」を発表した。しかしそれに支持を表明したのは、全体の約6割に留まった。民主主義の理念を掲げるだけでは、グローバルサウスを民主主義陣営に取り込むことは難しいのである。
新興諸国には、自国の利益を損ねているとして、先進国主導の国際秩序に対して長年の不満がある。この不満がひとたび噴き出せば、グローバルサウスは権威主義勢力に接近していき、先進国と新興国全体との闘いの構図が世界で一気に強まる可能性があるだろう。
先進国は、多様な価値観を認めたうえで、グローバルサウスに短期的な経済的利益を与えることを目指すのではなく、自ら持続的に成長できる環境を整えるように配慮することが重要だ。そのためには、戦後に先進国が形作ってきた政治、安全保障、経済、金融などの国際秩序を、必要に応じて見直していく柔軟な政策姿勢も求められるだろう。
G7は政治色を弱め、先進国側の利益ではなく、立場を超えて世界全体の利益を反映した政策を信頼される世界のリーダーらが議論する場、という本来の姿を取り戻す必要があるのではないか。
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