総裁は利上げを「停止しない」と明言
欧州中央銀行(ECB)は5月4日の理事会で、事前予想通りに0.25%の利上げを決めた。利上げ幅は、前回3月までの3会合連続での0.5%から縮小した。銀行が中央銀行に預ける際の金利である中銀預金金利は3.25%となった。
1-3月期のユーロ圏実質GDPが前期比+0.1%と事前予想を下回り、また銀行の貸出姿勢が慎重化するなど、景気後退懸念が浮上する中、ECBは景気への配慮から利上げ幅を圧縮したのである。
他方、4月のユーロ圏のコアCPI(食品やエネルギーを除く)は、前年比+5.6%と、過去最高を更新した3月の同+5.7%から高止まりを続けている。また、賃金上昇がさらなる物価上昇圧力につながることを警戒し、ECBは今回利上げ継続を決めた。
声明では、「理事会は引き続きデータに基づいて引き締めの適切な水準と期間を決める」、「金利の決定は今後についても、入手する経済・金融データ、基調インフレの動向、金融政策伝達の強さを踏まえたインフレ見通しの評価に基づく」としている。
さらにラガルド総裁は記者会見で、「(利上げを)停止しない。それは非常に明確だ」とし、「なおやるべきことがあると認識している」と語っており、追加利上げの実施を明確に示唆した。
量的引き締めも強化へ
ECBは、資産購入プログラム(APP)で購入した債券について、満期が来て償還された分を再投資する措置を、7月に停止する方針を示した。ECBは約5兆ユーロの保有債券を3月以降は、月額150億ユーロ程度のペースで減らしてきた。ラガルド総裁によると、再投資の停止によって削減ペースは平均で月額250億ユーロに高まる。量的引き締めが加速されるのである。
パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)下の保有債券の再投資は、計画通りに少なくとも2024年末まで続けると、ラガルド総裁は述べている。
今回の会合では、0.25%ではなく0.5%の利上げを複数参加者が支持したとされる。彼らは、資産購入プログラム(APP)で購入した債券について、満期が来て償還された分を再投資する措置を7月に停止するという量的面での引き締め強化策の実施を条件に、0.25%の利上げに賛成したとの見方がある。
金融市場は利上げの最終局面を意識
理事会前には金融市場は、政策金利の到着点、いわゆるターミナルレートを3.9%程度と想定していた。今回の会合後にはこれが3.6%程度まで低下している。これは、この先に0.25%の利上げが2回弱実施されるとの見方を反映している。
米国では米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを打ち止めにするとの観測が広がっている。他方、足元の銀行不安の再燃を受けて、7月、場合によっては6月にも利下げを実施する可能性を、金融市場は織り込み始めている。実際、そのようなことになれば、ECBの利上げは停止されることになるだろう。
経済、物価情勢を踏まえれば、ECBはなお追加利上げの方向にあると言えるが、金融情勢の悪化によって、突然の利上げ打ち止めや利下げの実施をECBが強いられる展開も想定しておく必要が出てきた。
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