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政府は16日に物価問題に関する関係閣僚会議を開き、6月1日から標準的な家庭で電気料金が2,078~5,323円引き上げられることを了承した。近く経済産業相が正式に認可する。

燃料費の高騰を受けて、電力大手7社は昨年11月以降に相次いで値上げを申請した。当初、東北、北陸、中国、四国、沖縄の5社は当初4月1日から、東京と北海道の2社は6月1日からの値上げを計画していた。実際には、6月1日の一斉値上げとなる。

各社の申請時の値上げ幅は28~48%であったが、政府は各社に直近の為替水準や燃料価格をもとに再算定を求めるなどした結果、最終的には14~38%まで値上げ幅は圧縮された。

経済産業相によると、標準的な家庭における電気料金の値上げ幅は、北海道電力が21%、東北電力が24%、東京電力ホールディングスが14%、北陸電力が42%、中国電力が29%、四国電力が25%、沖縄電力が38%になる。

電力大手10社のうち、3社は値上げ申請をしていない。各社の売上高構成からこの大手7社による値上げが全国平均で見た家計の電気料金を押し上げる幅を計算すると+12.3%となる。これは消費者物価全体を+0.42%押し上げる。さらにこの値上げによって実質GDPは1年間の効果で0.08%押し下げられる計算となる(内閣府、「短期日本経済マクロ計量モデル(2022 年版)」による試算)。

ところで政府は、電力大手各社の電気料金値上げが家計に悪影響を与えることを警戒して、今年2月に補助金による電気料金抑制策を講じた。総務省は、政策による電気料金押し下げによって2月の消費者物価は0.84%低下したとしている。ここから推計すると、この政策効果で電気料金は平均で24.6%低下したことになる。6月からの電気料金値上げの影響+12.3%は、そのちょうど半分となる。

電力各社による電気料金の引き上げの影響を相殺するとの狙いで講じた措置は、実際には、電力各社による電気料金の値上げを相殺するどころか、その2倍程度に相当する物価押し下げ効果を発揮したことになる。財政環境の一段の悪化という副作用を伴ったものの、この施策が消費の安定に一定程度寄与することは確かである。

それでも、引き続き賃金上昇率を上回る物価上昇率が続き、実質賃金が低下を続ける中、6月の電気料金値上げは、家計にとっては相応に打撃となるだろう。

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。