6月のFOMCで利上げは見送りの公算
13日に発表された米国消費者物価(CPI)は、総合で前年同月比+4.0%(前月比+0.1%)と2年2か月ぶりの低水準、食料・エネルギーを除くコアでは前年同月比+5.3%(前月比+0.4%)と1年3か月ぶりの低水準となった。依然として物価目標である+2%を大きく上回っており、米連邦準備制度理事会(FRB)によっては許容できない水準にある。しかしこの物価統計は、昨年3月以来の連続した利上げが経済、物価に与える影響を見極める猶予をFRBに与えるものとなったと言えるだろう。6月14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、昨年3月以来の利上げ局面で初めて利上げが見送られる可能性が高い。
7月のFOMCで利上げが再開される可能性は、現時点では50%程度と見ておきたい。いずれにせよ、利上げは最終局面にある。
物価上昇率はさらに低下の方向
消費者物価指数全体の34.6%もの高いウエイトを持つ住居費は、2か月連続で低下したとはいえ、5月に前年同月比+8%と高い上昇率を維持している。住居費を除くとコアCPIは前年同月比+3.4%である。
ただし、住宅費は物価全体に遅行する傾向が強い。他方、消費者物価の住宅費に先行する傾向がある、米不動産情報サイトのジローの数字によると、5月の家賃の前年同月比上昇率は+4.8%と、昨年2月の+17%から既に大きく低下している。住宅費の上昇率がこの先低下傾向を強めていけば、コアCPIの上昇率は低下のペースが高まることになるだろう。
5月の時間当たり賃金は前年同月比で+4.3%と、コアCPIの上昇率を下回っている。そうした中でも個人消費が安定を維持しているのは、物価高騰が一時的現象であるとの見方が消費者の間で崩れていないためだろう。
低位の中長期のインフレ期待は経済にプラス面とマイナス面の双方
10年のインフレ連動債に織り込まれている期待インフレ率は約2.2%である。実際の物価上昇率がかなり上振れるなかでも、金融市場、そして企業、家計の中長期のインフレ期待が安定を維持しているのが米国の特徴である。既に述べたように、これが消費を中心に経済の安定を支えている面があるだろう。
他方、このように中長期のインフレ期待が低位に抑えられている中で、FRBが大幅な利上げを進めてきたことは、経済に影響を与える実質金利(名目金利-インフレ期待)も急速に上昇してきたことを意味する。そして実質金利の現在の水準は、市場の期待インフレ率約2.2%とFF金利の5.0%~5.25%から算出すれば3%超である。これは、2008年のリーマンショック直前に並ぶ高水準だ。
加えてFRBは7月のFOMCでは利上げを再開するとの見方がある。他方で、この先、景気減速や一段の物価上昇率低下が確認されれば、中長期のインフレ期待がさらに下振れるだろう。それでも、高いインフレ率が定着してしまうことを強く警戒するFRBは、利下げに踏み切ることに慎重な姿勢を維持するだろう。
そのため、名目金利は高水準に維持される中、中長期のインフレ期待が下振れることで、実質金利はさらに上昇する。景気減速の傾向が確認される中で、むしろ実質金利は上昇し、事実上、金融引き締めが強化されることになる。
このように、米国の中長期のインフレ期待が低位に抑えられていることは、経済の安定にとってプラス面とマイナス面の双方がある。
米国経済の行方が金融市場を大きく左右
現状では、米国経済は物価高騰、FRBの大幅利上げに対して、予想外の耐性を見せている。しかし、以上のようなメカニズムによって、一気にその安定を失うリスクがあるのではないか。
また金融市場では、FRBの利上げは最終局面との見方が強まる一方、年内利下げの期待が後退しており、これが長期金利の上昇を通じて、為替市場では、円安・ドル高傾向を生じさせ、それが日本株を強く押し上げている面がある。
しかし、ひとたび米国の景気情勢が厳しさを増せば、米国長期金利は再び低下傾向を強め、円安・ドル高傾向が一気に巻き戻される可能性があるだろう。
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