進むロシアのドル離れ
6月16日にロシアのサンクトペテルブルクで国際経済フォーラムが開かれ、プーチン大統領が演説を行った。その中で、ベラルーシに最初の核兵器を搬入し、配備作業が年内に完了する、との見通しを明らかにした。
プーチン大統領は3月にベラルーシに戦術核兵器を配備する考えを明らかにし、6月のベラルーシのルカシェンコ大統領との会談では、7月上旬に核配備を開始する、と説明していた。ウクライナがロシアへの反転攻勢を進めるなか、核配備を前倒しで進め、ウクライナへの軍事支援を続ける欧米諸国をけん制する狙いがあるのだろう。
またプーチン大統領は演説の中で、先進国からの経済制裁はロシア経済に大きな打撃を与えていない、と強調している。2022年のロシアの実質GDPは-2.1%となったが、2023年は+1.5~+2.0%と増加に転じるとの予想を示した。
プーチン大統領がそうした楽観的な見通しの根拠として指摘するのが、ロシア経済の欧米経済離れ、ドル離れの進展である。プーチン大統領は、敵対する先進国以外との貿易を数倍に拡大したとし、今後も中国やインド、中東、アフリカなど非欧米諸国との連帯を強化して、欧米の対露制裁に対処していく姿勢を強調した。そのうえで、欧米の経済制裁は、ロシア経済に大きな打撃を与えておらず、「欧米側は他国の産業発展を阻止しようとしているが、自身の評価を下げているだけだ」と主張している。
またプーチン大統領は「中国との決済では80%以上がルーブルと人民元になった」、「ソ連諸国でつくるユーラシア経済同盟(EAEU)加盟国とは約90%がルーブルで決済されている」として、ドル離れが進んでいることをアピールした。SWIFT制裁で大きな制約を受けたドル、ユーロでの貿易決済を、ルーブルと人民元にシフトさせることで、ロシアが制裁で大きな打撃を受けた貿易を一定程度立て直してきたことは確かである。
見えない中長期のロシア経済の自律的成長の姿
それでも、先進国からの経済制裁によって、ロシア経済や財政が大きな打撃を受けていることは疑いがないところだ。特に昨年12月に先進国がロシア産石油の価格に上限を設けたことは、ロシアの原油輸出収入、財政収入を大きく減らした。米財務省によると、1~5月のロシアの石油収入は、前年同期比で5割近く減少した。ロシア産原油は、国際市場価格よりも約25%割安で取引されている。アデエモ財務副長官は、ロシア財政への打撃は大きく制裁措置は成功していると評価している。
ウクライナ侵攻後に、多くの先進国企業はロシアから撤退した。これもロシア経済に深刻な打撃を与えている。プーチン大統領は演説の中で、「自国企業による代替が進んでいる」と説明しているが、一方で、「外国メーカーがロシア市場に戻りたいなら、誰に対しても扉を閉ざさない」ともしており、先進国企業のロシア撤退によって、ロシア経済が大きな打撃を受けている可能性を示唆している。
しかし、ロシアがウクライナでの侵略行為を改めることがない限り、先進国によるロシア制裁が撤回されることはない。また、ロシアへの信頼を大きく低下させた先進国企業がロシアに戻ってくることはない。そのもとでは、ドル離れを通じて、ロシアが海外との貿易を一定程度維持できるとしても、ロシア経済が自律的に成長する中長期の展望は全く見えてこない。
(参考資料)
「プーチン氏、撤退外資に「扉閉ざさず」 フォーラムで演説」、2023年6月17日、日本経済新聞電子版
「制裁下 経済成長に自信 国際会合で露大統領 脱ドル目指す」、2023年6月17日、中国新聞朝刊
プロフィール
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。