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年末までにさらに幾らかの追加利上げが必要

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、21日に下院金融委員会で半期に一度の議会証言を行った。6月13・14日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)では、昨年3月以来の利上げ(政策金利引き上げ)見送りを決めるとともに、年内に2回の追加利上げを実施する方向が示された。今回の議会証言では、このFOMCでの決定を踏まえた金融政策の方針が説明された。

議長は、「ほぼ全てのFOMC参加者が年末までにさらに幾らかの追加利上げが適切と考えている(Nearly all FOMC participants expect that it will be appropriate to raise interest rates somewhat further by the end of the year)」とした。ただし、市場を驚かせた2回という回数については特に強調することはなかった。政策は、今後の経済指標を踏まえて会合ごとに決定するとした。

議長はFRBの使命である2%の物価目標の達成の重要性を何度も強調する一方、物価上昇率は鈍化傾向にあるものの、依然として目標水準よりもかなり高い点を指摘しており、金融政策はなお引き締め方向にあることを示唆した。

政策効果のラグ、銀行問題への影響に配慮し慎重に追加利上げの是非を判断

他方で、今まで相当幅で利上げを進めてきたこと、利上げが経済、物価に与える影響にはラグがあること、銀行問題などによる資金ひっ迫が経済、物価の逆風になる可能性があること、などにも言及した。これらは、FRBが追加利上げを慎重に行う姿勢であることを意味しよう。

FOMCはその見通しの中で年内2回、合計0.5%の追加利上げを示唆している。これに対して金融市場は年内1回程度の追加利上げを織り込んでいる。今回のパウエル議長の議会証言は、こうした金融市場の見方に修正を迫るものとはならなかった。

質疑応答の中でパウエル議長は、自動車走行での速度減速に例えて、今後の利上げはスピードを落とし、従来よりも緩やかなものにすることが妥当、との見方を示した。3月の銀行破綻を受けて生じている信用ひっ迫が、経済、物価の逆風に与える影響については「引き続き不透明」と説明している。

議員からは、銀行破綻を受けた銀行の監督・規制強化についての質問も出された。パウエル議長は、銀行規制の修正についてはまだ正式決定を行っていないが、スタッフが検討している修正案について説明を受けたことを明らかにしている。そのうえで、「FRBは中小規模の銀行の事業モデルに悪影響をもたらさないよう慎重になる必要がある」と語り、過剰な規制強化にならないよう配慮する姿勢を示した。

銀行監督担当のバー副議長は、年内に銀行規制の改正を提案すると見られている。その際にも、中小銀行には大手銀行ほど厳しい規制は適用せず、低所得層のコミュニティーの繁栄を支える中小銀行の役割が損なわれないように配慮するものとみられる。

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。