歴史が示す「高インフレ局面では3年以内に銀行危機が引き起こされる」
国際決済銀行(BIS)は25日に公表した年次経済報告書の中で、金融政策はインフレに打ち勝ち、物価安定を確保する最終局面にあるが、それはまた最も難しい局面であることを強調した。金融システムが長期化した低金利環境の変化に対応する際に、金融のストレスが高まり、金融システムの安定が脅かされる恐れがあるためだ。
こうした難しい局面で、物価の安定確保と金融システムの安定を両立させるためには、緊縮財政を通じて財政面からもインフレ圧力を軽減させることが重要だ。その分金融政策への負担が減り、過度な金融引き締めによって金融危機を引き起こしてしまうリスクを低下させることができる。これが、BISが年次経済報告書の中で最も主張したかったことだろう。
他方で、その実現が容易ではないこともまた、BISは理解している。BISは、歴史を振り返ると、高インフレ局面では3年以内に銀行危機が引き起こされるケースが多い、とも述べているのである。
銀行不安に続くノンバンクのリスク
BISは、世界の多くの地域で、サプライチェーンの正常化や商品市況の下落を受けて、歴史的な物価高騰が沈静化しつつあるが、中央銀行のインフレとの闘いの終わりはまだ遠いと指摘する。それは、労働市場はなお逼迫しており、サービス価格の上昇率は依然高いためだ。そのもとでは、賃金と物価の間でスパイラルが生じ、高いインフレ期待が根付いてしまうリスクがある。
BISは報告書で、インフレと金融リスクとの関連を分析している。低金利環境が長く続き金融市場のリスクテイクが強まった結果、債務は積み上がり、資産価格は上昇する。そのもとで金融引き締めが進めば、資産価格の下落とともに家計、企業のバランスシートが急激に悪化し、債務削減の強い圧力(ディレバレッジ)が経済を悪化させる。
BISは、そうしたリスクは3月の欧米の銀行不安や銀行破綻で既に表面化したが、それで終わるとは思えないとしている。銀行の問題以外でも、ファンドなどノンバンク(非銀行金融仲介機関)で、過剰債務や流動性のミスマッチなどの問題が引き起こされる可能性が残されているからだ。
「経済安定領域(region of stability)」での金融・財政のポリシーミックス
このようにかなり難しい局面で、金融危機を引き起こすことなくインフレを抑え込むという離れ技に成功するためには、財政政策と金融政策が協調し、政府は緊縮財政を取ることが重要とBISは指摘する。そうなれば、その分、金融引き締めが抑えられ、金融危機が引き起こされるリスクが低下する。
他方、金融監督・規制が強化されることで金融システムの健全性が高められれば、その分、金融危機を引き起こさずにインフレ抑制のために中央銀行が利上げを進める余地も広がる。つまり、金融政策の自由度が高まる。
ところが、インフレが高止まりし、金利が急上昇するなかでも各国政府は財政拡張的な政策を取り続け、いわゆる「経済安定領域(region of stability)」の限界を試している、とBISは批判する。
金融システムの安定を維持しつつ物価安定を回復するのは至難の業
リーマンショック後、長期にわたって低金利環境が続き、その中で家計、企業の債務が増加し、金融市場ではリスクテイク傾向が強まった。その後に、歴史的な物価高騰と歴史的なペースでの金融引き締めが行われているのである。
そのもとで、経済が適度に減速する中、物価の安定が回復され、他方で金融リスクも高まらない、といったソフトランディングが実現できる可能性が果たしてどの程度あるだろうか。
BISが主張するように、緊縮財政政策によって、金融政策のインフレ抑制政策の負担が軽減され、金融監督・規制の強化によって、金融政策が金融システムの安定に配慮する必要性が軽減されれば、金融政策の自由度は高まるだろう。それでも、金融システムの安定を維持しつつ、物価の安定を回復するのはなお至難の業である。それはナローパスだろう。
BISが指摘するように、その難しさは歴史が示しているのである。
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