規制強化で暗号資産市場に逆風が強まる中、ビットコインの価格が上昇
米証券取引委員会(SEC)は6月5日に、暗号資産(仮想通貨)交換所大手のバイナンスを提訴、続く6日に同じく暗号資産交換所大手の米コインベースを提訴した。両社ともに法廷の場で全面的にSECと争う構えであり、結論が出るまでには何年もかかりそうだ(コラム「 SECと暗号資産交換業者がいよいよ本格対決へ:暗号資産の衰退への一歩か新たな進化のきっかけか 」、2023年6月12日、「 暗号資産(仮想通貨)交換所大手バイナンスとSECとの長い争い 」、2023年6月22日)。
こうした当局による業界締め付けの動きは、暗号資産ビジネス全体に大きな不確実性を生じさせており、それが暗号資産価格全体の大きな重しとなった。ところが、足元では、代表的な暗号資産であるビットコインの価格が大幅に上昇している。SECの提訴を受けて一時、2万5,000ドル前後まで下がったビットコインの価格は、6月22日には約2か月ぶりに3万ドル台にまで戻している。米資産運用大手のブラックロックが6月15日に、ビットコインの現物に投資するETFの承認申請をSECに提出したことがそのきっかけだ。さらに27日には、同じく米資産運用大手フィデリティもビットコイン現物に投資するETFの上場をSECに申請する見通しだと報じられた。
米国ではビットコインの先物価格に連動するETFは認められ、既に上場しているが、投資家保護の観点から現物のETFは認められていない。過去の申請に対して、SECは申請をすべて却下してきたのである。最近も、175億ドルのビットコインファンド「グレースケール・ビットコイン・トラスト(GBTC)」を運営し、ETFへの転換を求めているグレースケール・インベストメンツの申請をSECが却下したことで、同社はSECを相手に訴訟を起こしている。
現物市場での価格操作の可能性が焦点に
ただし今回は、米資産運用最大手が申請に乗り出したことで、SECの判断が改めて注目されており、認められるとの期待が、ビットコインの価格を押し上げている。
ブラックロックは「アイシェアーズ・ビットコイン・トラスト」として、ナスダック市場への現物ETF上場を目指している。ビットコインを保有する信託を設立し、一定の口数の発行と償還を行うという仕組みは、金のような現物商品のETFの仕組みと似ており、今までSECに却下されてきたものに近い。
ただし大きな違いは、ビットコインの現物取引プラットフォームの「監視」を、ETFを上場させるナスダックと共有することで合意する見通し、ということだ。その場合、ナスダックは買い手、売り手、価格に関する秘密情報を得る可能性がある。
SECがこれまでビットコインの現物ETFの申請を却下してきた際に、その理由としてきたのが、価格操作の可能性だった。現物市場での価格操作が、既に認められているビットコイン先物ETFの情報から検知できるかどうかについて、SECは懐疑的だった。
暗号資産市場への逆風は続く
そのリスクが軽減されるのであれば、SECはブラックロックの申請を認めるかもしれない。
ブラックロックは「交換所を通じてビットコインを直接保有することなく、投資家にとってより身近な証券市場でビットコインへの投資手段を提供できる」としている。
ただし、その分、交換所を通したビットコインの取引が減り、交換所の収益に悪影響が及ぶ可能性も考えられるところだ。ブラックロックは、ビットコインを扱うカストディアン(保管機関)に米仮想通貨交換業大手コインベースが担う。コインベースはそこから手数料を得ることはできるが、他の交換所はそうではない。申請が認められても、それがビットコインの価格や交換所のビジネス全体に大きなプラスであるかどうかはまだ分からない。
さらに、米連邦準備制度理事会(FRB)が、なお利上げを続ける方針である中、キャッシュフローを生まない暗号資産の価格には、強い逆風が当面続くことになるだろう。
(参考資料)
"Bitcoin Bonanza on Tap if BlackRock ETF Is Approved(ビットコイン現物ETF、承認なら「金の卵」ブラックロックが申請)", Wall Street Journal, June 22, 2023
「ビットコイン現物ETF 米ブラックロック、上場を申請」、2023年6月17日、日本経済新聞電子版
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