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FOMCでは追加利上げ実施がコンセンサスに

米連邦準備制度理事会(FRB)は7月5日、11会合ぶりに利上げ見送りを決めた6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公開した。最終的には利上げ見送りは全会一致で決まったが、議事録で示された議論から、金融政策について参加者の意見は分かれており、全体としてはなお追加利上げに前向きな姿勢であることが確認された。

議事録によると、複数の参加者が「0.25%の利上げを続けるべき」と6月も利上げ継続を主張していた。また、「ほぼすべての参加者が年内に追加の利上げが適当との考えを支持した」と記述された。

今回の議事録でFRBが追加利上げに前向きな姿勢が改めて確認されたことから、金融市場では7月にFRBの利上げが再開されるとの見方が強まり、10年国債利回りは3.95%程度まで上昇し、今年3月以来の4%台に迫った。

FOMC内でのハト派は、過去の金融引き締め効果が遅れて表れる累積的効果に注目すべきとし、連続利上げを一度止めることをタカ派に受け入れさせた。それとの交換条件で、タカ派は、引き続き利上げ局面の中にあること、早期に利下げに転じる可能性が低いことをFOMC内で確認したうえで、それを対外的に伝えることをハト派に求めた感がある。6月のFOMCで予想を上回る年内2回の追加利上げの見通し(中央値)が示されたことは、そのことを示唆していよう。実際、その見通しを受けて、利上げ打ち止め観測、年内利下げ観測は一段と後退した。そして今回の議事録を受けて、その傾向はさらに強まったのである。

雇用統計は過大推計か

他方、議事録に盛り込まれたFOMC参加者の見解の中で注目されたのが、雇用統計での雇用者(事業者ベース)の数字が過大評価されている、との指摘だ。家計調査での雇用者数や雇用・賃金の四半期センサス、ADP雇用指数に基づくFRBのスタッフの推計によると、実際の雇用の増加ペースは、雇用統計(事業者ベース)の数字よりも小さい可能性を複数の参加者が指摘した。

非農業部門雇用者数の前月比の伸びは過去3か月平均で28万3,000人だ。さらに、7月7日に発表される6月雇用統計での雇用者増加数の予測の平均値は、22万5,000人程度である。FOMCでの指摘が正しければ、過去数か月の雇用者数は今回下方修正される可能性がある。

それでも、金融市場が予想する7月の追加利上げ観測は簡単には修正されないだろうが、6月ISM製造業指数など、足元での経済指標の下振れも踏まえると、9月の追加利上げ見通しが後退する可能性があるだろう。

景気情勢がかなり悪化しない限り、FRBの早期利下げ観測が金融市場に浮上しないと思われる。FRBの物価高への警戒感が強いためだ。

しかし、実際に景気情勢の悪化を示す経済指標の発表が増える一方、FRBが積極的な利下げで景気を支えない、との観測が広がっていく局面で、景気の悪化傾向が先行き増幅されるとの観測が金融市場に広がり、株価に下落圧力が高まりやすくなるだろう。

さらにそうした局面では、FRBが高水準の政策金利を維持する中で、先行きの景気悪化への懸念やFRBが将来的には大幅な利下げに追い込まれるとの観測が高まり、長期金利が大きく下振れて、ドル安が進むという展開も考えられるところだ。

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。