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今回見送られても次回会合以降にYCCの運用柔軟化を決めるか

無風と考えられていた本日の日銀金融政策決定会合が、直前になって波乱に見舞われている。本日の日本経済新聞が、日本銀行はイールドカーブ・コントロール(YCC)の枠組みを維持しつつも、10年国債利回りが変動幅の上限を上回ることを容認する案を日本銀行が会合で議論する、との観測記事を報じたためだ。これを受けて、10年国債利回りは3月以来となる0.5%超えとなった。為替市場ではドル円レートが一時1ドル138円台まで下落し、日経平均株価は大幅下落で始まった。

日本銀行が、報道されているようなYCCの見直しを本日決定するかどうかはまだ分からない。確率的には50%程度ではないか。しかし、YCCの枠組みを変更せずに、その運用を柔軟化する同案は、現実的なアプローチであり、仮に今回の会合で見送られるとしても、次回会合以降で決定される可能性は相応にあるのではないか。

市場は事実上の新たな上限を探る動きに

同案は、今まで予想されてきたYCCの変動幅再拡大や変動幅撤廃といった見直しと比較して、金融市場への打撃を抑えつつ、日本銀行が国債の大量買入れを強いられるといった副作用を抑えることができる。筆者も昨年には、こうした修正案を予想していた。

仮に日本銀行が、10年国債利回りが変動幅の上限を上回ることを容認することを決めた場合、指値オペは恒常的な利用から裁量的な利用へと変化する。そのもとで、10年国債利回りが大幅に上昇した場合には、日本銀行は指値オペを機動的に利用することで10年国債利回りの大幅上昇を引き続きけん制するだろう。

変動幅の上限の意味合いが薄れ、YCCの形骸化が進んでいけば、金融市場は日本銀行が10年国債利回りの上昇をどこまで認めるのか、試すはずだ。どの水準が、日本銀行が容認する事実上の新たな上限となるかは明らかではないが、それは1%ではないだろう。最大で0.7%~0.75%程度となるのではないか。

いずれにせよ、国債市場が安定を取り戻すまでにはしばらく時間がかかり、その間、金融市場と日本銀行の間での対話が繰り返されるだろう。

YCCの廃止はかなり先に

日本銀行が、10年国債利回りが変動幅の上限を上回ることを容認することを今回あるいはこの先の会合で決める場合、YCCの変動幅再拡大や変動幅撤廃といった見直しはあまり意味がなくなる。事実上、YCCの形骸化は相当進むことになるからだ。

それでも、YCCの廃止は来年後半以降など、かなり先になるだろう。日本銀行が最も警戒しているのは、マイナス金利の解除を決める際に、長期金利が不規則に大幅上昇してしまうことだ。そのため、長期の金利をコントロールするYCCの枠組みは今後も維持し、必要に応じて指値オペを使って長期金利の上昇をけん制することが正当化される環境は維持するだろう。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。