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堅調な成長も輸出悪化には懸念が残る

米商務省が27日に発表した4-6月期GDP統計で、実質GDPは前期比年率+2.4%と事前予想を上回った。米国の実質GDPは、昨年前半に2四半期連続でマイナスを記録したが、それ以降は年率+2%を超える成長率が4四半期連続している。今回の数字は、米国の景気後退懸念を緩和させるものとなった。

実質個人消費は前期比年率+1.6%と、前期の同+4.2%を大きく下回ったが、なお予想外の堅調を維持している。実質住宅投資は前期比年率-4.2%と、9四半期連続でのマイナスとなり、金利上昇の影響が確認できる。他方で、2四半期連続で増勢を落としていた企業の実質設備投資は、前期比年率+7.7%と大幅に増加し、金利上昇が企業部門の活動をまだ強くは抑制していないことを示唆している。

他方で、米国経済の懸念として浮上しているのは、輸出環境の悪化である。実質輸出は前期比年率-10.8%の大幅悪化となった。マイナス幅は、コロナショック時の2020年4-6月期の同-60.9%以来、3年ぶりである。足もとでは、製造業を中心に中国や欧州の景気減速がより鮮明となってきており、米国経済が海外景気の弱さに足元を掬われる可能性が出てきた。

物価上昇率の落ち着きがむしろ高める景気下振れリスク

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウル議長は26日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、FRBのスタッフはもはや米国の景気後退入りを予想していないとして、景気後退回避への自信を深めた。金融市場も、物価上昇率が着実に低下してきていることから、FRBの利上げは最終局面にあるとして、景気の先行きに楽観的な見方を示している。

しかし、米国経済については、物価上昇率の落ち着きが見られ始めてから、むしろリスクが高まる、という面があるのではないか。まず、物価上昇率が低下してきていること自体が、金融引き締めによる景気減速の表れとも言える。

また、FRBが物価高に対する警戒を容易に解かない中で、景気の減速が明確になれば、金融市場、企業、家計の中長期のインフレ期待はさらに低下していく。その結果、実質金利(名目金利-インフレ期待)は上昇し、事実上の金融引き締め効果が強化されるなか、それが経済活動を抑制するのである。

米国は「静かなる危機」に陥るか

コロナショック、ウクライナ侵攻、FRBの急激な利上げと、過去数年間起こった事象のもと、米国経済が最終的にどのようにランディングするのかを見極めることができるのは、今年中ではないかもしれない。来年、あるいは再来年までずれ込む可能性も考えられる。

しかし、大幅な利上げとインフレ警戒色の強いFRBの政策姿勢のもと、米国経済は、最終的にはソフトランディングするよりも、ハードランディング、つまり景気後退に陥っていく可能性がやはり高いのではないか。非常に深刻な景気後退は避けられるとしても、企業のディレバレッジ(債務圧縮)、不動産価格の下落、中堅・中小銀行の経営不振やファンドの不振が長引く、緩やかながらも長期化する「静かなる危機」に陥る可能性を引き続き見ておきたい。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。