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財コアは下落幅が拡大しデフレ状態

米労働省が10日に発表した7月CPIは、物価上昇率の低下傾向を裏付けるものとなった。CPI全体の前年同月比は+3.2%と前月の同+3.0%から上昇したものの、これは前年の水準によるところが大きく、事前予想の+3.3%を下回った。

前月比は+0.2%と前月と同水準の比較的低めとなった。食料・エネルギー除くコアCPIは前月比+0.2%と、これも前月と同水準の比較的低めとなり、前年同月比は+4.7%と低下傾向を続けた。

CPI全体の前月比上昇のうち、9割は家賃の上昇によるものだ。しかし家賃の前月比上昇率も+0.4%と6月と同水準に留まり、5月の同+0.6%などと比べて上昇ペースは鈍ってきている。

財コア指数(除く食料・エネルギー)は前月比-0.3%と前月の同-0.1%から下落幅を拡大させた。景気減速などを映し、財の価格は既にデフレ状態に陥っている。他方、サービスコア指数(除くエネルギーサービス)は前月比+0.4%と前月の同+0.3%から上昇幅を拡大させた。家賃、自動車保険、教育費、遊興費などの価格が上昇した。一方、航空料金、医療費、通信費などは下落した。

家賃を中心にサービス価格の上昇率がなお高めである。これは賃金上昇の影響によるところもあるが、一般に物価高騰時にはサービス価格上昇率の低下は遅れる傾向にある。この点を踏まえると、米国は着実に物価の安定を取り戻しつつあると言えるだろう。

金融市場に大きな影響を与えるのは物価指標よりも経済指標の強い下振れ

他方、事前予想を下回った7月CPIは、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ観測を若干低下させたものの、なお政策を決める決定打とはなっていない。8月分雇用統計、CPIなどの重要指標がなお残る。

現状では9月のFOMCで利上げが見送られる可能性は50%を上回ると考えておきたいが、それによって利上げ打ち止め観測が金融市場で強まるかどうかについてはなお不確実だ。米連邦準備制度理事会(FRB)は、早期の利上げ打ち止め観測が、株価上昇、長期金利低下、ドル安を通じて金融引き締めによる物価、インフレ期待の抑制効果を損ねてしまうことを強く警戒している。そのため、9月のFOMCで追加利上げが実施されても、見送られても、追加利上げの可能性を強く示唆することになるだろう。その結果、9月のFOMCでの決定が、長期金利やドルなどの金融市場に大きな影響は与えないと見ておきたい。

金融市場に大きな影響が生じるのは、早期の利下げ観測が強まる局面だ。物価の下振れでは、そうした期待が一気に高まることはないだろう。経済指標の強い下振れや金融機関、金融市場の混乱がそのきっかけになると見ておきたい。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。