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デフォルトに陥れば恒大よりも影響は深刻か

中国の大手不動産開発会社「碧桂園(カントリー・ガーデン、広東省仏山市)」は、発行したドル建て社債2本(総額2,250万ドル)の保有者に対して、8月7日が期限であった利払いを履行できなかった。30日間の猶予までに支払いができなければ、デフォルト(支払い不能)となる。

さらに同社は13日の香港証券取引所への届け出で、同社と関連会社が発行した人民元建て社債11本の取引を14日から停止することを発表したことから、デフォルト懸念が一層高まることになった。同社は9月2日に償還期限を迎える人民元建て社債の支払期限を延長し、3年間にわたって分割で支払う案について、一部の債券保有者に打診しているとブルームバーグが報じている。債務再編交渉である。

同社は10日、2023年1~6月期の最終利益が450億~550億元(約9,000億~約1兆1,000億円)の赤字になるとの見通しを発表したことから、経営不安が一気に高まっていた。前年同期には19億1,000万元の黒字を記録していた。

急激な収益悪化の背景にあるのは、開発物件の販売減少だ。2023年1~6月期の同社の販売実績は、成約額が前年同期比-30.4%だった。これは業界平均の同-5.3%と比べてかなり悪いものだ。

碧桂園の2022年末時点の資産総額は1兆7,400億元、負債額は1兆4,300億元で、恒大グループの負債額1兆8,000億元に匹敵する。1年以内に返済義務が発生する負債は937億800万元、年内に返済期限を迎える債務は約200億元に達している(7月末時点)。これに対し、現金同等資産の残高は1,475億5,000万元だという。

同社は実質的デフォルトに陥った恒大グループの4倍にも上るプロジェクトを抱えていること等から、デフォルトに陥れば、恒大グループよりも影響は深刻だとみる向きが多い。

長引く不動産不況

中国経済の不振の中核にあるのが、長引く不動産不況だ(図表)。不動産投資額は1-6月に前年同期比-7.9%と悪化したが、7月はさらに下落幅が拡大したとみられる。不動産価格が下落するなか、さらに不動産開発業者の資金難から住宅建設が停止し、購入した住宅の引き渡しがなされないことを警戒して、個人の間では住宅購入を手控える動きが広がっている。その結果生じる住宅価格の下落は、既に住宅を購入している個人にとっては保有資産の目減りを意味し、それが逆資産効果を生んで、個人消費の低迷にもつながっているのである。

図表 日本、米国、中国の住宅価格

不動産不況から経済の長期低迷へ(中国経済の日本化)

こうした不動産不況を起点とする経済の悪化は、物価の下落を生んでおり、7月のCPIは前年比で-0.3%と下落に転じた。物価と不動産価格の下落が同時に進行する「ダブル・デフレ」の様相を呈しており、バブル後の日本経済が辿った長期低迷も想起される(コラム「 世界経済『静かなる危機』①:中国経済は日本化するか?(上):ダブル・デフレと深刻なディレバレッジ(資産圧縮)のリスク 」、2023年8月8日、「 世界経済『静かなる危機』②:中国経済は日本化するか?(下):日本のバブル崩壊との類似点 」、2023年8月9日)。

他方で中国政府は、債務拡大を伴ってビジネスを急拡大させ、その過程で巨額の利益を上げるとともに、不動産価格を急騰させたことを問題視している。このため、恒大グループと同様に、碧桂園を直接支援することに政府は慎重な姿勢を崩さないだろう。

碧桂園は社債を保有する投資家との間で債務再編交渉を繰り返す中で、少なくとも実質的なデフォルトへと陥っていくのではないか。問題は、同業他社にも広がり、不動産市場の調整圧力を再び高めるとともに、それが経済の長期低迷にもつながっていくことが懸念される。

(参考資料)
「中国経済の新たなリスク、碧桂園17%安-オンショア社債取引停止」、2023年8月14日、ブルームバーグ
「中国5位の不動産企業にデフォルト危機、債券10種の取引中断」、2023年8月14、中央日報
「不動産大手・碧桂園、ドル建て債の利払いできず=経営不安が拡大-広東省」、2023年8月8日、アジアビジネス情報(時事通信)
「中国不動産「碧桂園」赤字1兆円…社債利払いできず、デフォルトなら恒大集団より影響深刻か」、2023年8月12日、読売新聞速報ニュース

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。