補助金延長の場合にはガソリン価格190円台は回避へ
政府は昨年年初から実施しているガソリン補助金を9月末で終了する予定であった。しかし、6月からの補助金の段階的な削減によるガソリン小売価格の上昇に対する予想外の世論の強い反発を受けて、今月末までに補助金制度の延長の是非を決定する方向で調整を進めている。
経済産業省によると8月21日の全国ガソリン価格(レギュラー)の小売平均価格は183.7円と、2008年8月に記録した史上最高値の185.2円に接近している。補助金制度を年末まで延長し、1リットル180円未満の水準に抑制する方向で、現在、政府、与党内で調整が進められていると報道されている。
また、経済産業省によると、補助金がない場合には足元でガソリン価格は平均196.0円と推定されている。また、現状の原油価格(WTIで80ドル/バレル)、為替レート(1ドル146円)を前提に計算すると、仮に9月末で補助金制度が終了する場合には、その時点でガソリン価格は199円まで上昇すると試算される。
政府は6月から補助金を段階的に削減しているが、これは、9月末で補助金制度が廃止された際に、ガソリン価格が急騰することを避ける激変緩和措置である。補助金終了時にガソリン価格が一気に上昇しないように、補助金の影響を受けないガソリン価格の動きを随時反映しつつ、段階的に補助金の削減を進めているとみられる。このようなアプローチを続ける場合、9月に入るとガソリン価格は190円台に乗せることになる。
しかし、補助金制度の延長が決まれば、補助金の削減による不人気なガソリン価格の上昇をもはや政府は続ける必要はなくなる。政府の匙加減次第ではあるが、9月には補助金の段階的な削減は停止され、ガソリン価格が190円台乗せることは回避されると見込まれる。
170円までの価格抑制再開で家計は年間7,960円の節約に
補助金制度延長後も、従来と同様にガソリン価格の平均水準が概ね一定になるようにコントロールされるだろう。それがどの水準となるかについてはまだ明らかではないが、180円未満との報道が出ていることから推察すれば、175円程度、あるいは170円程度となるのではないか。
補助金が予定通りに廃止される場合には、10月にガソリン価格は199円程度になると推定されるが、このケースと比較して、補助金の延長によって価格を170円程度まで再び抑える場合には、消費者物価は0.27%低下する計算だ。また延長された補助金制度が1年続く場合には、実質個人消費を1年間で+0.13%押し上げる計算となる(内閣府短期日本経済マクロ計量モデル・2022年版)。
他方、175円程度に価格を抑える場合には、消費者物価は0.22%低下し、1年間で実質個人消費を+0.11%押し上げる計算となる(コラム、「 政府はガソリン補助金延長と経済対策の2段階実施へ:ガソリン補助金延長で物価は0.27%低下、実質個人消費は0.13%上昇 」、2023年8月23日)。
さらに、ガソリン価格の抑制によって、家計(総世帯)の年間ガソリン購入支出は、それぞれのケースで7,962円、6,599円節約できる計算となる。
弱者救済の新たなスキームへの衣替えが望ましい
このようにガソリン補助金制度の延長は、家計には追い風となるが、反面、財政負担を一層増加させ、それは結局国民の負担となることや、脱炭素政策に逆行するなど問題点も多い。
小売価格全体を押し下げる補助金を単純に延長するのではなく、ガソリン価格高騰で特に打撃を受ける低所得の家計や運輸、漁業などの零細企業をピンポイントで支援する弱者救済のセーフティネット策に衣替えする方がよいのではないか。例えば、所得制限付きの給付金やガソリン価格購入額に応じた補助金支給などの措置が選択肢として考えられるところだ。
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