概算要求額は過去最高に
財務省は31日に、2024年度予算の各省庁による概算要求を締め切った。具体額を示さない事項要求を除く概算要求の総額は、2023年度予算では110兆484億円だったが、2024年度はこれを上回る114兆円程度となる見通しだ。その場合、過去最大となった2022年度予算の概算要求額である111兆6,559億円も上回る規模となる。
2023年の骨太の方針で政府は、持続可能な財政政策運営を謡い、「コロナ禍を脱し、歳出構造を平時に戻していく」とした。しかし実際には、コロナ問題が終息に向かい、財政を取り巻く環境は平時となっても、歳出規模はなかなか正常化しない。
2024年度予算には、岸田政権が優先課題に掲げる「防衛費増額」、「少子化対策」、「グリーントランスフォーメーション(GX)投資」の3分野が影響し、歳出増加に弾みがつく形となっている。他方で、いずれの政策についても、財源が固まっていない、あるいは財源確保が先送りされており、財政赤字が一段と拡大するリスクが高まっている。
防衛省は防衛力強化のため過去最大の7兆7,385億円を計上する方向だ。2023年度当初予算から1兆円近く増加する。
厚生労働省の要求額は33兆7,300億円と、2023年度当初予算より5,900億円程度、1.8%程度増える。高齢化で医療や介護、年金といった社会保障費が膨らむ。
GX関連は省庁横断で総額2兆円超を要求する。うち1.2兆円を2024年度分とし、残りを3~5年程度かけて使う。
日銀の政策修正を睨み想定金利は0.4%の大幅引き上げ
こうした予算要求の増加に加えて、今回増加が目立ったのは国債費だ。財務省は国債の償還、利払いに充てる国債費の要求額を28兆1,424億円とした。過去最大となった2023年度当初予算から2兆8,921億円、11.5%の増加となる。
毎年新規国債を発行し、国債発行残高が増える中で償還に必要な国債費は増えていく。これに加えて、今回の国債費要求額を大きく膨らませたのは、国債の想定金利の引き上げだ。今年度の1.1%から1.5%に0.4%ポイント引き上げたのである。7月に日本銀行がイールドカーブ・コントロール(YCC)の運用柔軟化を決め、10年国債金利はそれ以前から0.1%~0.2%上昇している。さらなる上昇の可能性も見越して、財務省は想定金利を引き上げたのである。
このように、金利上昇による利払い費増加も、新たな歳出増加要因となってきた。実際には、日本銀行が10年国債金利で1.0%を事実上の上限とする中、国債利払いの平均金利が1.5%まで上昇する可能性はかなり限られるだろう。ただし、保守的な前提で国債費の予算を計上することは望ましい。
当初予算では2017年度から2023年度まで想定金利は1.1%で据え置かれた。2023年度予算については概算要求段階で1.3%と0.2%ポイント引き上げていたが、年末にかけての予算編成の過程で1.1%に下げた。今後の金利動向、日本銀行の金融政策を睨み、想定金利の引き上げ幅が圧縮される可能性もあるだろう。
なし崩し的な国債発行増加が経済の潜在力を損ねる
国債費も含めて、2024年度の予算は一段と拡大する方向が、今回の予算要求から見えてきている。このままでは、平時の歳出構造に戻ることはないだろう。他方で、「防衛費増額」、「少子化対策」の財源議論は空転を続けている。そうしたもとでは、なし崩し的に新規国債発行で財政赤字が穴埋めされる傾向がより強まってしまう。
それは、将来の需要を前借することになり、将来の需要の期待を低下させることになる。その結果、中長期の成長期待を低下させた企業は設備投資、雇用、賃金を抑制し、潜在成長率は一段と低下してしまう。それが税収を低下させることで財政環境を一段と悪化させてしまうだろう。
こうした悪循環を断ちきるためには、政府は強い主導力を発揮して、実効性の高い財政健全化策を推し進める必要がある。
(参考資料)
「国債費、1割増の28.1兆円 財務省の24年度予算要求」、2023年8月28日、日本経済新聞電子版
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