「あらゆる選択肢を排除せず」との発言
本日(9月6日)の東京外国為替市場で、ドル円レートは一時1ドル147円台後半までドル高円安が進んだ。年初来で最も円安の水準である。サウジアラビアが自主減産を12月まで延長すると表明し、原油価格が大きく上昇した。それを受けて、米国で長期国債利回りが上昇したことが背景である。
ところで1年ほど前の昨年9月22日には、日本銀行が金融政策決定会合で金融政策の維持を決めたことをきっかけに、ドル円レートは1ドル145円90銭と23年ぶりの水準に達した。それを受けて、政府は1998年6月以来24年ぶりとなる円買い為替介入に踏み切った。
神田財務官は本日、足元の円安の動きを「急激な変動」、「投機的な行動」などと表現したうえで、「政府としてはあらゆる選択肢を排除せずに適切に対応していきたい」と語った。「あらゆる選択肢を排除せず」というのは、市場を強くけん制するために選んだ強い表現に聞こえる。
昨年の為替介入に至る過程で同氏は、昨年9月14日に、「あらゆるオプションを排除せずに適切な対応をしたい」と、同様の表現で為替市場での円安を強くけん制していた。その時点でのドル円レートは、144円台後半だった。実際に政府が為替介入に踏み切ったのは、それからちょうど1週間後のことである。
日本銀行の「レートチェック」も注目
昨年の同日(9月14日)には、神田財務官の発言以外に、もう一つ大きなイベントがあった。日本銀行が、為替介入の準備のために市場参加者に相場水準を尋ねる「レートチェック」を実施したのである。
このレートチェックは、本来は財務省が為替介入を決めた時点で、日本銀行が、財務省の求めに応じて為替介入を実施する直前の段階で行うものである。ただし昨年は、レートチェックを実施しても、直ぐには為替介入は実施されなかった。従って、この時のレートチェックは、為替介入の実務とは関係なく、市場をけん制する狙いで実施されたものであった。これを日本銀行が自らの判断で実施したのか、それとも政府からの要請で実施したのかは明らかではない。
いずれによせ、神田財務官の発言に加えて、日本銀行がこの先レートチェックを実施すれば、昨年の為替介入の一週間前と同じ状況となり、為替介入が近いことの明確なサインと考えることができるのではないか。
国民の間で再び高まる円安・物価高への不満
日本の為替介入を米国など他の主要国は歓迎していないとみられるが、そうした中でも昨年、政府が為替介入の実施に踏み切ったのは、円安進行が物価高を助長することに、国民が不満を強めていたためである。
賃金上昇率を大きく上回る物価上昇率は、今年に入ってからも続いており、円安進行に対する国民の不安や、その原因ともなっている日本銀行の金融緩和維持の姿勢についての国民からの批判も、再び高まってきているように見える。そうした経済環境の面も、昨年の為替介入時に似てきているのである。
昨年、政府は米国市場でも為替介入を実施したが、これは米国当局から歓迎されないことから、できる限り東京市場で介入を実施したいと政府は考えているのではないか。さらに為替介入は、特定の水準を意識したものではなく、あくまでも投機的で過度な動きをけん制するスムージング・オペレーションであることが主要国の間では建前となっている。
この点から、東京市場で1日のうちに2円程度など一気に円安が進むタイミングを狙って、政府は為替介入に踏み切るのではないか。
150円台前半程度で円安に歯止めが掛かるか
ただし、実際には、政府は特定の為替の水準も意識しているとみられる。それは1ドル150円、あるいは昨年のドル高円安のピークである1ドル151円台である。こうした水準が事実上の防衛ラインだとすると、その手前で介入が実施される可能性が考えられる。
仮に為替介入が実施されれば、対ドルで2円から3円程度、一時的に円高に振れる可能性はある。しかし昨年と同様に、為替介入の効果は一時的なものであり、時間稼ぎでしかない。まさに「時間を買う政策」である。
また昨年と同様に、円安の流れを受けて日本銀行が政策修正に踏み切る可能性は低い。そうした中、円安の流れを変えるのは、米国の景気減速、本格的な金融緩和観測が浮上する場合だろう。そうした米国での経済・金融環境の変化は、遠くない将来に生じるものと見ておきたい。
この点から、政府の為替介入が大きな効果を発揮することはないとしても、時間稼ぎをしている間に、ドル高円安の進行は1ドル150円台前半程度までで歯止めが掛かっていく、と現時点では見ておきたい。
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