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当面のデフォルト危機をなんとか回避

経営難に陥った中国不動産大手・碧桂園(カントリー・ガーデン)の債権者は9月11日に、同社の人民元建て債券の108億元(約2,200億円)分について、3年間の償還延長に関する投票を実施した。報道によれば、8本の債券のうち6本が承認された。

これまでも別の人民元建て債券について、同社は返済期限を2026年まで延長する承認を債権者から取り付けていた。また5日には、ドル建て債券で延滞していた2,250万ドル(約33億円)の利払いを実施したことが、明らかになっていた。当面の債務不履行(デフォルト)危機をなんとか回避しているのである。

ただし、今回の投票では、まだ2本の承認は確定していない。碧桂園の関連会社が発行した今年10月21日償還債と、11月3日に早期償還を要求できるプッタブル債だという。

不動産市況が改善しない限り碧桂園の流動性危機は続く

債権者らは、碧桂園が外部から流動性支援などを受けることなく、年内に期限を迎える債務の返済が可能な状態なのか、大いに疑問を持っている。先行き返済できる見込みがないのであれば、今の時点で返済をあきらめるはずであり、そうでないのは、政府から支援の約束を取り付けているからなのではないか、との観測も出ている。しかしそれは根拠がなく、希望的観測でしかない。

海外の債権者からは、政府などから流動性支援を受けるか、さもなくば、破綻宣言を行い、早々に債務整理を進める方が良いとの意見も聞かれる。

碧桂園は今月少なくとも5回の利払いを控えており、そのうち17日の1,500万ドル、27日の4,000万ドルのドル建て債利払いは比較的規模が大きい。ただし、この2件の支払いにはいずれも30日間の猶予期間が設定されているため、利払いができなくても直ぐにはデフォルトとはならない。

不動産市況が改善しない限り、碧桂園の流動性危機は続く。碧桂園が8月30日に公表した2023年1~6月期の決算で、純損益は489億元(約9,800億円)の赤字だった。前年同期である2022年上期の6億1,200万元の黒字、2022年下期の67億元の損失と比べ、損失額は急速に拡大している。保有する不動産価格の下落による評価損拡大の影響が大きい。

さらに向こう12か月以内に期限を迎える債務は約148億ドルである。それに対して、キャッシュの水準は約138億ドルだ。政府など外部からの流動性支援を得ずに、同社がデフォルトを回避し続けるのは難しいように思われる。

政府の支援が手遅れとならないか

ところで、不動産開発会社のデフォルトは、既に頻発している。上場する不動産会社はこれまでに30社超がデフォルトした。そのうち9割は民営企業だ。碧桂園も民営企業であり、国営企業のように、政府から支援を受けることが保証されている訳ではない。

しかし、仮に碧桂園が経営破綻する場合には、中国経済や金融に甚大な打撃となるだろう。それは、恒大グループの経営危機よりも大きな打撃となる可能性がある。碧桂園の2022年末時点の資産総額は1兆7,400億元、負債額は1兆4,300億元で、恒大グループの負債額1兆8,000億元に匹敵する。

また、同社は実質的デフォルトに陥った恒大グループの4倍にも上るプロジェクトを抱えている。さらに、恒大グループが経営危機に陥った2021年と比べて、現在の方が中国経済の状況は悪い。そのため、碧桂園がデフォルトに陥れば、恒大グループよりも経済や不動産市場に与える影響は深刻となるのではないか。

この点を考慮すれば、政府は碧桂園の支援に乗り出す可能性があるだろう。しかし他方で、政府は、債務を急増させつつビジネスを急拡大させ、その過程で不動産市場を過熱させた大手不動産開発会社を救済することに慎重であり、政府はぎりぎりまで推移を見守る可能性がある。その場合、不動産市場の調整、シャドーバンキング(影の銀行)の不安定化、経済の悪化が三位一体となって進行し、手遅れに近い状況に陥ってしまうリスクもあるのではないか。

(参考資料)
「碧桂園、元建て債6本の返済3年延長を債権者承認と報道-株価急反発」、2023年9月12日、ブルームバーグ
「デフォルト回避の碧桂園、年内の返済なお疑問視」、2023年9月11日、ChinaWave経済・産業ニュース
「中国不動産、秋の需要期 回復「三度目の正直」なるか-点検・中国リスク」、2023年9月11日、日本経済新聞電子版

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。