為替介入は米国政府に配慮する必要
ドル円レートは1ドル149円台を固めつつある。日本政府は1ドル150円、あるいは昨年10月の円安のピークである1ドル151円台後半という水準を防衛ラインと考えているのではないか。その水準を超えると、円安にさらに弾みがつきかねないからだ。
防衛ラインの1ドル150円が目前に迫る中、政府は、為替介入を実施するタイミングを見計らっている段階だろう。しかし、日本の為替介入はどのタイミングでも随意に実施できる訳ではない。その最大の制約は米国政府の意向にある。
イエレン米財務長官は、為替介入は特定の水準や方向に誘導するために実施されることは認められず、それが許されるのは、市場の投機的な行動によって過度な変動が生じる場合、その変動を抑えるスムージングオペのみである、との主旨の発言を先般、改めてしている。これは日本に限らず、主要国が為替介入を行う際の条件である。
日本政府は、本音はともかくとして、こうした主要国の為替介入の条件を表面的には守る必要がある。そのため、1ドル150円といった防衛ラインを意識していつでも為替介入を行うことができる訳ではなく、為替市場が大きく変動するタイミグでしか介入を実施できないと考えられる。
現状のようにかなり緩やかに円安が進行する場合には、為替介入実施のきっかけをなかなか見出しにくいのである。その結果、防衛ラインである1ドル150円あるいは1ドル151円台後半といった水準を超えた円安進行を許してしまう可能性も相応にあるだろう。
東京市場で1日1円を大きく超える円安進行が介入再開の条件か
昨年も実施した為替介入を1年ぶりに再開するための条件は、東京市場で1日1円を大きく超える円安進行が生じることではないかと考えられる。昨年9月に為替介入を開始した際には、こうした条件が満たされていた。
政府は昨年、NY市場でも大量の円買いドル売りを実施したが、初回の介入は東京市場だった。そもそも米国側は日本の為替介入を積極的に支持している訳ではないことから、協調介入時のように米国連邦準備制度理事会(FRB)がNY市場で日本のために委託介入を行うことはないだろう。また、海外当局によるNY市場での介入は、米国市場の資金フローに影響を与えることから、米国はそれを嫌う。
従って、東京市場で1日1円を大きく超える円安進行が生じるという制約のもとで、政府は為替介入再開を決めるのではないか。
政府は為替介入で円安阻止の姿勢を国民にアピールすることを狙うか
岸田政権は物価高対策を中核とする経済対策の方針を26日に打ち出した。円安進行は物価高圧力を強め、物価高対策の効果を損ねてしまう。そこで、米国政府に十分配慮しつつ、政府は円安阻止の姿勢を国民にアピールする観点からも、早晩、為替介入の再開に踏み切るだろう。
日本銀行が本格的な政策修正に踏み切るまでにはなお時間がかかるなか、FRBが政策金利を高水準に維持する期間が長期化するとの観測が強まれば、米国の長期金利は一段と上昇し、さらなる円安進行を促すことになる。
他方、昨年と比べて円安を抑える要因もある。昨年と比べ、今年の円安進行のペースは半分以下であることの背景にはそれがあるだろう。第1は、FRBの大幅利上げが最終局面にある可能性が高いことだ。
円安阻止に向けた政府と日本銀行の協調強化が昨年との大きな違い
第2は、総裁の交代によって、日本銀行が円安回避を狙う政府との協調姿勢を強めるようになったことだ。日本銀行は、円安を食い止めるために政策を本格的に修正することは考えにくいが、それ以外にも為替市場に影響を与える手段を持っている。7月のイールドカーブ・コントロール(YCC)の運用柔軟化も、為替市場のボラティリティ低下を狙った措置であることを日本銀行は認めている。これがなければ、もっと円安が進んでいただろう。
また、日本銀行は、金融市場で政策修正への期待を高めるような口先介入を実施する、あるいは国債買い入れ額を抑えることで長期金利の上昇を促し、円安をけん制することもできる。
ドル円レートは主に米国側の要因によって決まり、現時点ではそれらに不確実性が高いとはいえ、こうした点を踏まえると、1ドル150円台半ばが円安進行のピークになるものと現状では見ておきたい。
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