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低下を続ける世界の成長率トレンド

国際通貨基金(IMF)は10月10日に、最新の世界経済見通しを発表した。2023年の成長率見通しは+3.0%、2024年は+2.9%と、2022年の+3.5%から成長率は低下方向を辿る見通しとなっている。前回7月時点の見通しから、2023年は据え置かれたが、2024年については0.1%ポイント引き下げられた。これらは、コロナ問題前の2000年~2019年の平均値である+3.8%を大きく下回っている。世界はコロナ問題がもたらす直接的な経済への打撃は乗り越えたが、その副作用とも言える物価高騰の影響を経済はなお強く受けているのである。

また、中長期の平均値を示唆する2028年の成長率見通しは+3.1%であり、世界経済の成長率の中長期トレンドは、先行き低下傾向を続ける見通しである。

米国の成長率見通しは、2023年の+2.1%から2024年には+1.5%と下振れる。金融引き締めの経済への影響が来年には本格的に表れる見通しである。他方、ユーロ圏の2023年の成長率見通しは+0.7%(ドイツは-0.5%)と景気後退に近づいた。2024年の見通しは、+1.2%とやや持ち直す。

日本も中国も2024年の成長率は再び下振れ

日本の成長率は、2022年の+1.0%から2023年は+2.0%に加速する見通しだ。しかしこれは、感染リスクの低下による消費活動の活発化、インバウンド需要の急回復、半導体不足の解消など一時的要因によるところが大きく、2024年には再び+1.0%へと低下する。足もとで強まる回復感は一時的なものとの見通しである。

中国の成長率はゼロコロナ政策の影響で下振れた2022年の+3.0%から、2023年にはその反動で+5.0%へと高まる。これは政府の成長率見通しの水準であり、それが達成できるかどうかは微妙という水準だ。さらに2024年の成長率見通しは+4.2%と+5.0%を大きく下回り、中国の成長率のトレンドが着実に低下しているとの見方を示している。2028年には中国の成長率は+3.4%まで低下し、新興国の成長率をリードする役割が終わることを示唆している。

インフレ率見通しは上方修正

世界の消費者物価上昇率の見通しは、2022年の+8.7%から2023年は+6.9%、2024年は+5.8%と低下方向が予想されている。しかし、2024年の物価見通しは7月時点の+5.2%から大幅に上方修正された。原油価格が再び上昇していることなどが背景にある。

IMFは、多くの国で物価上昇率が2025年まで目標値を下回らないと予想する。IMFのチーフエコノミストは、「インフレ率が目標に向かってしっかりと下がり続けるまで、多くの国では金融引き締めを維持する必要がある」と述べている。

予想外にしつこい物価高騰は、予想外の金融引き締めの長期化をもたらしている。その結果、今回のIMFの見通しでは物価上昇率の見通しの上方修正と成長率見通しの下方修正が同時に進む形となっている。

歴史的な物価高騰後の物価の安定回復は、歴史的なペースでの金融引き締めを通じ経済を犠牲にする形でしか実現しないのではないか。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。