イスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃を受けた紛争を、一気に拡大させる可能性があるのが、イランの関与である。今までハマスを支援してきたイランは、ハマス支持の立場を明らかにしているものの、今回の攻撃にイランが関与した明確な証拠は今のところ示されていない。ただし、イランが支援するもう一つの組織であるレバノンのシーア派イスラム主義武装組織ヒズボラが、イスラエルの北部国境で軍事行動を活発化させた場合、情勢はさらに不安定となるだろう。
大局的に見れば、米国が中東地域の安定に向けた主導的役割を後退させ、軍事的影響力を弱めたことが、紛争の遠因にあるかもしれない。また最近では、民主党と共和党の激しい対立が、国内での債務上限問題、そして政府閉鎖問題を深刻化させてしまったことが、国際社会における米国のリーダーシップにも影を落としている。さらに、共和党の強い反対によって、辛うじて可決されたつなぎ法案に、ウクライナへの軍事支援が盛り込まれなかったことも、米国の軍事力行使が制約されることを示すもの、と世界では受け止められた可能性があるだろう。
バイデン政権は、2001年9月11日の同時多発テロ直後にアフガニスタンで始めた20年間に及ぶ米軍の統治を終了し、2021年に撤退した。軍事的な脅威を強める中国への対抗を念頭に、軍事力をアジア地域に集中させる狙いがあったと考えられる。
ところがそうした戦略は、ロシアによるウクライナ侵攻によって狂ってしまった。米国はウクライナ支援に軍事的資源を割くことを強いられ、戦力はアジア地域と欧州地域とに分散する「二正面作戦」を強いられるようになった。
さらに、今回の中東情勢の緊迫化を受けて、米国は中東地域への軍事的コミットメントも強化せざるを得なくなった。いまや「三正面作戦」を強いられているのである。米海軍は既に空母ジェラルド・フォードを地中海東部に展開し、戦闘機のプレゼンスを強化することで、イランとその関連武装グループの活動抑止を図っている。
またバイデン大統領は10日にイスラエルのネタニヤフ首相と電話会談を行い、イスラエルへの軍事支援を約束した。弾薬、イスラエルの防空システム「アイアンドーム」を補強するための迎撃ミサイルなどを供与する意向だ。そのうえで、バイデン大統領は議会に対して、必要な資金を確保するための迅速な予算の承認を要請した。
政府閉鎖問題の混乱で、議会では下院議長不在の異例の状況にあり、その機能が大きく低下している。今回の事態を受け、共和党が下院議長を速やかに選任するとともに、イスラエル支援に向けた歳出法案を共和党保守強硬派も支持する形で迅速に成立させることができるかどうかに注目したい。それが可能かどうかは、低下してしまった国際社会での政治的指導力、軍事的な影響力を米国が回復できるどうかの試金石ともなるのではないか。
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