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FRBは住宅関連指標に注目

米商務省は10月26日に、7-9月期のGDP統計(速報値)を発表する。米国経済が夏場に加速したことは明らかであり、アトランタ連銀のGDPNowの最新値は、同期の実質GDPが前期比年率+5.4%と、前期の同+2.1%から加速することを示している。

しかし、このような驚くほど高い成長率になったからと言って、米連邦準備制度理事会(FRB)の当面の金融政策に大きく影響する訳ではないだろう。11月1日の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBが追加利上げを見送る、という金融市場の見方が大きく修正されることもないだろう。

夏場の成長率が上振れたことを前提に、FRBは政策運営を進めてきた。そして、7月以降、米国の長期金利が上昇傾向を強めた背景には、この成長率の加速がある。FRBは、この長期金利の上昇が追加利上げと同様に景気抑制効果を発揮すると考えている。それゆえに、7-9月期の成長率が上振れても、11月1日の次回FOMCでは追加利上げを見送る可能性が高いと考えられる。

FRBにとっては、7-9月期の成長率はもはや古い経済指標であり、長期金利の上昇が10-12月期以降の景気、物価に与える影響に関心は移っている。

長期金利の上昇に最も敏感に反応するのが住宅であることから、FRBも住宅関連の指標に注目しているだろう。

住宅投資の減速が個人消費に波及

全米不動産協会(NAR)が19日発表した9月の中古住宅販売件数は、季節調整済み年率で396万戸となった。これは前年同月の468万戸から大幅に減少しており、新型コロナウイルス問題発生直後の水準さえも下回っている。住宅ローン金利が急上昇したことで、住宅投資に大きな打撃が及び始めていることを意味していよう。

しかも、9月の中古住宅販売件数は、まだ長期金利上昇の影響を十分に反映していないと考えられる。中古住宅販売件数は、成約時点ではなく物件引き渡しが完了した時点で計上されるためだ。

米連邦住宅金融機関(GSE)である米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)によれば、9月の30年固定住宅ローン金利は平均7.2%だったが、9月の住宅販売件数の大部分は、金利がまだ7%未満の水準だった時に資金調達がなされた可能性があるという。またフレディマックによると、18日に終了した週の住宅ローン金利は平均7.63%とさらに上昇したことから、先行きの中古住宅販売件数は一段と低迷する可能性が高い。

GDPに占める住宅投資の比率は大きくないため、住宅投資の減速だけでは景気は大きく減速しない。住宅投資の減速が、関連する個人消費の減速につながって初めて、景気全体に大きく影響してくるのである。

この点から、FRBは当面、住宅関連指標を見極め、さらに住宅投資の減速が個人消費にどの程度波及しているかを慎重にチェックすることになるだろう。

このように、FRBの政策は、7-9月期の成長加速後の米国経済を見定める、様子見の期間に既に入っている。その後に、追加利上げの実施か利上げ打ち止めかの大きな判断を下すことになる。

(参考資料)
"Housing's Other Threat to the Economy(米経済、住宅部門が「もう一つの脅威」に)",Wall Street Journal, October 23, 2023

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。