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中国政府が1兆元の経済対策を実施か

中国政府が、景気対策に本格的に乗り出した可能性がある。中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会は24日に、1兆元(約20兆5千億円)の国債の追加発行を承認した。年度途中で予算が修正されるのは、中国では異例なことだ。ブルームバーグによると、2008年の四川大地震、1990年代終りのアジア金融危機の発生時など、過去にも数回しか例がないという。

不動産不況などを背景に中国経済が低迷している。2023年の実質GDPの成長率が目標(5%)を達成できないとなると2年連続となる。そうした事態を避ける狙いが、政府にはあると考えられる。

国債の追加発行で調達された資金は、被災地の再建を支援し、国の災害対応能力を高めるため、つまり公共事業に使われるという。ただし、その資金はすべて地方政府へ回され、地方政府が公共事業に投入する。部分的には、財政環境が厳しい地方政府の赤字穴埋め、債務削減に利用される可能性もあるかもしれない。

国債増発により、2023年の財政赤字額は3兆8,800億元から4兆8,800億元に増加する。その結果、財政赤字のGDP比率の見通しは、今年3.0%から3.8%に拡大する。

習近平国家主席は、中央政府の財政悪化につながる経済対策に慎重な姿勢とされてきたが、想定以上の不動産問題の悪化、経済減速、地方財政の悪化などを受けて、その姿勢をやや修正したものと考えられる。

GDPの1%未満の規模で依然慎重な経済対策

しかし、今回の経済対策は、それほど大きな規模とは言えない。リーマンショック後の2009年に中国政府が実施し、世界経済を救ったとされた4兆元の経済対策と比べれば、その規模は4分の1だ。

また、2009年の中国の名目GDPは34.9兆元(国際通貨基金(IMF))であり、4兆元の経済対策はその11.5%程度の規模であった。それに対して、2022年の中国の名目GDP121.0兆元(IMF)であるので、1兆元の経済対策はその0.8%に過ぎない。経済規模との比較では、100分の1以下である。日本では4.5兆円程度の経済対策規模に相当するものだ。

こうした点から、今回の経済対策がどの程度、中国経済の回復に寄与するかは不透明だ。さらに、最も深刻な問題を抱える不動産市場への直接的な支援策ではない。中国政府は、既に住宅購入の支援策を打ち出したが、それも積極的なものではない。経営危機に直面する大手デベロッパーの直接的な支援もしていない。安易な支援が、金融問題を内包する中国の不動産の構造調整を妨げてしまうことを恐れているのではないか。

このように、慎重姿勢がなお崩れないもとで中国政府が打ち出す、比較的小規模な今回の経済対策によって、中国の不動産が本格回復に転じ、成長率の低下傾向に歯止めがかかることはないと考えられる。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。