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長期金利上昇の影響にも配慮し追加利上げは見送り

米連邦準備制度理事会(FRB)は、11月1日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利の据え置きを全会一致で決めた。追加利上げの見送りは9月のFOMCに続いて2回連続となるが、これは2022年3月に始まった今回の利上げ局面では初めてのことだ。利上げが最終局面にあるとの金融市場の見方は一段と強まっている。

7~9月期の成長率が年率+4.9%と大きく上振れたことは、FRBの追加利上げ再開を後押しする材料である。他方で、足もとで長期金利が大幅に上昇していることが、追加利上げと同等の金融引き締め効果を発揮するとの判断が、FRBの利上げ見送りにつながった面があるだろう。

パウエル議長は記者会見で、金融状況は「複数ある要因の中でも特に長期債利回りの上昇により、ここ数か月に顕著に引き締まった」と述べている。

利上げを実施した7月のFOMCで3.9%程度であった10年国債金利は、足もとで一時5%を付けるなど、1%ポイント以上上昇している。さらに、この金利上昇は、景気の上振れやインフレリスクの上昇を反映しているだけでない可能性がある。米国政府債務上限問題、政府閉鎖問題などで高まっている財政ガバナンスのリスクを反映しているだろう。また実際に財政赤字が拡大し、さらに、政府債務上限問題の影響から国債発行が抑制されていたことの反動による国債増発の影響も反映していると考えられる。その場合、長期金利の上昇は、実質長期金利の上昇につながり、経済活動に抑制効果を発揮することが期待される。

実際、住宅ローンの金利上昇が、中古住宅販売に低迷をもたらしている。今後は、個人消費の減速にも波及していく可能性があるだろう。

FRBは追加利上げ打ち止めをまだ決めかねている

長期金利の上昇に加え、足もとで原油価格が上振れているものの、基調的な物価上昇率が着実に低下傾向を辿っていることも、成長率が上振れするもとでも、FRBが追加利上げを見送り、様子見姿勢を続けることができる余裕を生じさせている。

声明文では、「委員会の目標の達成を妨げる可能性があるリスクが生じた場合、委員会は金融政策の姿勢を適切に調整する準備がある」との文言を維持し、追加利上げの選択肢を残した。パウエル議長も記者会見で、12月の次回FOMCで利上げを決定することはあり得ると示唆した。

一方で、引き締め局面が終了した可能性も認めているのである。物価上昇率を目標の2%に戻す上で金融政策が十分に景気抑制的かどうか、まだ判断に確信を持てないとも述べており、先行きの政策には不確実性がなお強く残る状況だ。

金融市場は利上げ打ち止め観測を強めドル高円安に歯止め

金融市場では、12月の次回FOMCでも追加利上げは見送られるとの予想が強まっている。日本銀行のイールドカーブ・コントロール(YCC)再柔軟化決定後、前日には1ドル151円70円台にまで達していたドル円レートは、FOMC後に追加利上げ観測が後退する中、海外市場では150円台後半までドル安円高が進んだ。

FOMC後に追加利利上げ観測が高まる場合には、ドル高円安が一段と強まる可能性があり、日本政府も為替介入再開も視野に入れていたと見られる。政府は1ドル150円の第1防衛ラインを破られた後、昨年のドル高円安のピークである1ドル152円程度を第2防衛ラインとして意識している可能性が考えられる。タイミングを見計らって、政府は為替介入を通じて第1防衛ラインの手前である1ドル140円台までドル円レートを押し戻すことを狙っているのではないか。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。