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中国不動産開発大手の碧桂園(カントリー・ガーデン)は10月に、1,500万ドルの利払いを期日内に履行できなかった。クロスデフォルト条項(債務者が1つの債務の返済を履行できない場合、その債務者が負う他のすべての債務に関して債務不履行(デフォルト)とみなされるもの)に従い、同社の約110億ドルのオフショア債全体がデフォルトに陥ったと広く認識されている。

ロイター通信は、中国政府が大手金融グループである平和保険に対して、碧桂園の株式を50%以上買い入れて支配株主となるように求めた、と報じている。香港証券取引所のデータによると、平安保険は8月11日時点で碧桂園の株式の4.99%を保有している。

当局と平安保険との協議は8月下旬に始まり、中国人民銀行(中央銀行)の金融市場局と国家金融監督管理総局が協議を主導しているという。平和保険が碧桂園の株式を50%以上買い入れた後に、当局が段階的に資本注入を行い、碧桂園の資金繰りの問題を緩和していく計画だという。

仮にこうした計画が実現すれば、巨額の負債を抱える中国不動産会社に対する政府の救済策としては、過去最大級となり、初めての本格的な政府介入となる。

ただしロイター通信の報道を受けて平安保険は声明で、「関連する政府機関からそのような要請を受けていない」と報道を全面否定している。政府からの要請は本当であるとしても、平安保険がそのスキームをまだ受け入れていないことを、平安保険の声明は意味しているのではないかと推察される。

報道を受けて平安保険の株価は下落している。これは、同社が碧桂園株式を大幅に買い増せば、平安保険が大きなリスクを抱え込むことを市場は懸念しているのである。

政府は経営危機に陥った不動産開発大手の救済策に乗り出すとしても、一気に国有化するような救済ではなく、民間企業あるいは地方政府が主導する形での救済に依然としてこだわっているように見える。不動産不況が生じても、行き過ぎた不動産ビジネスの縮小、過熱した不動産市場の調整はなお必要、との基本的な考えが変わっていないからだろう。

ただし、そうした政府の慎重姿勢が基本的に変わらないもとで、大手不動産開発会社に対する政府の救済策が手遅れとなってしまい、経済やシャドーバンキング(非銀行金融仲介)に深刻な打撃が及ぶ事態に発展してしまうリスクは、依然として相応の確率で存在しているのではないか。

(参考資料)
「中国当局、碧桂園の支配株主を要請と関係筋 平安保険は否定」、2023年11月8日、ロイター通信ニュース
「中国政府、平安保険に碧桂園の救済要請 通信社報道-平安保険は否定」、2023年11月8日、日本経済新聞電子版

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。