金融市場は雇用の下振れリスクに備えていたか
8日に発表された米国11月雇用統計は、全体的に事前予想を上回る内容となり、米連邦準備制度理事会(FRB)の早期利下げ観測に水を差す結果となった。
11月の非農業部門雇用者数は前月比19万9,000人増となり、事前の市場予想の19万人増(ダウ・ジョーンズ通信集計)をやや上回った。失業率は3.7%と前月の3.9%を下回った。市場予想は前月と同水準の3.9%だった。また、時間当たり賃金の上昇率は前月比+0.4%と前月の0.2%から加速し、前年同月比で4.0%となったが、これはほぼ予想通りであった。
11月は自動車大手などのストライキが終わった影響で雇用者は前月比では4万人ほど上振れたと見られ、これを除くと増加数は決して大きくない。
11月雇用統計は、全体として労働市場が緩やかに悪化しているとの見方を覆すような内容ではないと言える。しかし、10月分の雇用統計は想定以上に下振れ、さらに10月の雇用動態調査や11月のADP全米雇用リポートなど、足もとで発表された労働関連指標は下振れが目立っていたことから、金融市場は11月米雇用統計が弱めの方向に振れることをより強く警戒していた。そして、その場合、2024年のFRBの緩和期待が一層強まり、長期金利低下やドル安が一気に進むなど、統計が市場が大きく動くトリガーとなるリスクを強く意識し、それに備えていたのである。
利下げ観測は変わらず
11月雇用統計が発表される前には、2024年3月にもFRBが利下げに転じるとの観測が、金融市場に相応に織り込まれていた。米国経済が後退局面に陥るリスクを示す、決定的に弱い経済指標がまだ発表されない中、数か月後の利下げ観測はやや行き過ぎであった。
しかし、11月雇用統計を受けて、利下げ開始時期の予想は2024年3月から5月などへと、数か月後ずれする期待が高まったものの、利下げ期待自体が大きく修正されたわけではない。2024年中には合計で1%程度の利下げが行われるとの期待は維持されている。
この先も、経済、物価指標次第でなおFRBの政策に対する金融市場の見方に振れは生じるだろうが、追加利上げ観測が再浮上する可能性はもはやかなり低い一方、利下げ観測が大幅に後退する可能性も小さいだろう。
11月雇用統計を受けてドルと債券価格は下落したが、株式市場には追い風となり、8日にはダウ工業株30種平均とS&P500種株価指数がともに年初来高値を更新した。利下げ期待が幾分後退し、長期金利が上昇したことは株式市場にとって逆風ではあるものの、他方で、11月雇用統計によって景気失速懸念が緩和されたことが追い風となった。いわば、株式市場は現在、スイートスポットに差し掛かっていると言える。
しかし、この先景気減速観測が強まる中では、次第に経済、業績の悪化懸念から、米国の株式市場は調整色を強めていくのではないか。
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