政治資金パーティを巡る問題は、現職の閣僚、党幹部の大幅入れ替えに発展か
自民党派閥の政治資金パーティを巡る問題は、日々広がりを見せており、岸田政権を大きく揺さぶっている。政治資金収支報告書に記載していない疑いで、党内最大派閥の安倍派(清和政策研究会)の松野官房長官は、事実上更迭されるとの見方を各紙は報じている。
さらに朝日新聞は、同派幹部6人が直近5年間でそれぞれ1千万円超から約100万円を受け取り、政治資金収支報告書に記載していない疑いがあると報じている。この6人は松野官房長官、西村経済産業相、萩生田党政調会長、高木党国会対策委員長、世耕党参院幹事長のいわゆる「安倍派5人衆」と、「座長」である塩谷元文部科学相である。このうち塩谷氏以外は、現職の閣僚や、党幹部である。
読売新聞は、高木国会対策委員長を松野官房長官と同様に事実上更迭する方向で岸田首相が検討に入ったと報じている。
さらに、岸田政権は、「安倍派5人衆」を含む閣僚・自民幹部らの大幅な交代を迫られる、との見方も強まっている。政権内では、松野氏の交代を先行させたうえ、13日の臨時国会閉会以降に、12月下旬の2024年度予算案の編成状況などを踏まえて、他の人事を実施することが検討されているという。
後手に回った対応
この問題で、岸田首相の対応は後手に回った感がある。松野氏は疑惑発覚後も記者会見や国会で「政府の立場で答えは控える」、「適切に対応する」などとの形式的な発言を繰り返したことから、世論は反発を強めた。それに対して岸田首相は、松野氏を守る姿勢を続けた。
さらに岸田首相は、派閥主催の政治資金パーティを当面自粛するよう党幹部と申し合わせ、また首相・党総裁の在任中は自ら会長を務めてきた岸田派を離れると表明した。しかしこれらは、問題への本質的な対応とはなっておらず、むしろ国民の目を問題からそらす狙いがあるとの見方も浮上し、国民からの批判は一段と強まった感がある。
第4派閥の出身で政治基盤が強固でない岸田首相は、党内派閥のバランスを重視することで、政権を維持してきた。特に最大派閥の安倍派を重用してきた。今年9月の内閣改造では、来秋の総裁選の再選を見据えて、政権運営の軸足を安倍派に一層傾けた、ともされる。
派閥バランス重視の政策運営に大きな打撃
そうしたもとで起きた安倍派の問題は、派閥バランス重視の岸田政権の政策運営には大きな障害となる。一方、安倍派の閣僚、党幹部を多く交代させる場合に、安倍派の強い反発を浴びれば、その後の政権運営に逆風となり、2024年9月の自民党総裁選での岸田首相の総裁再選にも赤信号が灯りかねない。
他方、足元まで続く岸田政権の経済政策での大きなブレ、混乱の起点となったのは、昨年年末の防衛増税を巡る安倍派の強い反発であったように思われる。岸田政権が閣議決定をした防衛増税に安倍派など保守層が強く反発し、いまだに決着をみていない。これは、岸田政権の政策運営への信頼感を損ねてしまっただろう。
国民からの支持率が大きく低下してしまった岸田首相が、苦境を乗り越え長期政権に向かうことができるのであれば、今回の問題を受けた安倍派の勢力低下は、岸田首相が本来望む政策を実現できる方向に働くことが考えられる。しかし、政権の持続性については、リスクが高まっている状況だ。
政治の不安定化は日本では円高要因に
政権が国民からの支持を失っている不安定な政治情勢は、経済政策遂行の障害であるなどの観点から、金融市場には悪材料となりやすい。具体的には円高、株安要因である(コラム「 繰り返される政治とカネの問題:先行きの政局を睨み金融市場はどう反応するか:日銀の政策修正にも影響か 」、2023年12月4日)。
多くの国では、政府不安は通貨安要因であるが、日本の場合には、政治の不安定化も含めたすべてのリスク要因の高まりは、円高要因となることが多い。日本の金融機関がリスク軽減を図って海外資産を国内安全資産に移す動きを誘発するとの発想が底流にあるだろう。そして円高が進めば、大手輸出企業の減益要因となることから、株式市場にも逆風である。
日本銀行の政策の自由度は高まるか
安倍派の勢力低下は、日本銀行にとっては金融政策の自由度を高める要因であり、マイナス金利政策解除など政策修正を進めやすくなると言えるのではないか。安倍派は概して、財政拡張的な経済政策を支持する傾向が強いと思われる。そのため、財政拡張策のために国債発行を拡大させても長期金利が上昇しない環境を維持することを狙って、日本銀行の異例の金融緩和の維持を主張する声が、安倍派内では概して強い。また、2%の物価目標や異例の金融緩和は、アベノミクスの遺産との考え方もあり、日本銀行の政策修正に批判的な傾向がある。
こうした安倍派の姿勢は、日本銀行の政策修正には一定程度の制約になっているものとみられる。この点から、今回の問題が安倍派の勢力を大きく削ぐ場合には、日本銀行は政策修正に向けた自由度をより獲得することになり、それは日米金利差縮小観測から円高要因となるのである。
7日には、植田総裁の「年末から来年にかけて一段とチャレンジングな状況になる」との発言を、早期の政策修正の可能性を示唆したと解釈した為替市場で、一時141円台と今年9月以来の円高水準となった。こうした為替市場の反応は過剰であったと考えられる(コラム「 植田総裁発言で早期利上げ観測が浮上か 」、2023年12月7日)が、米国の利下げ観測、日本銀行の政策修正観測が燻ぶる中、国内政治の不安定化要因がさらに強まる場合、ドル円レートは、今年年末には1ドル140円台前半(1ドル140円~145円)を固める動きとなることが見込まれる。
このような年末にかけての円高の動きは、2024年が円高の一年となることを先取りする動きでもあるのではないか(コラム「 2024年は円高の一年に 」、2023年12月8日)。
プロフィール
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。