防衛増税実施時期の明記は再び見送りへ
与党・税制調査委員会は、今週中に2024年度与党税制改正大綱を取りまとめる方針だ。昨年の与党税制改正大綱の取りまとめでは、防衛費増額の財源の一部を賄うための防衛増税の扱いで、議論が紛糾した。
防衛増税策は、法人、所得、たばこの3税で2027年度までに1兆円強を賄うというものだが、この増税について与党内から予想以上に強い反発が出たため、2023年度与党税制大綱には、防衛増税の実施を盛り込むことができなかった。大綱には、防衛増税実施は「2027年度に向けて複数年かけて」、「2024年以降の適切な時期」とだけ記された。
防衛増税の議論はそれから1年間棚晒しにされたが、結局、今回の2024年度与党税制改正大綱でも実施時期は明記されない方向だ。再度先送りされるきっかけの一つとなったのが、政府が11月初めに示した総合経済対策の中で、6月に時限的な所得減税を実施することを示したことだ。減税と増税を同時に議論することは、国民にとって分かりにくい、との議論が与党内で高まったことを受け、岸田首相は2024年度から増税を実施しない考えを早々に表明した。その結果、2024年度に増税が開始される可能性はほぼなくなったのである。
財務省は新たに決算剰余金の上振れ分や外為特会の一般会計への繰り入れなどで1兆円強の財源を確保できる、と試算した。これにより、2025年の途中までは増税しないでも防衛費増額の財源はまかなえる見通しだという。これによって、2024年度も防衛増税を見送る政府の方針を後付けで正当化した。
経済対策としての時限的所得減税と防衛増税は分けて考えるべき
他方、自民党税制調査会の宮沢会長は、2024年度に防衛増税を実施できなくても、予見可能性といった意味から今年の年末に実施時期を決めるべきだ、と強く主張してきたが、その声も与党内の反対意見によってかき消されていった。
経済対策としての時限的所得減税と防衛費増額の財源確保手段としての増税とでは、目的と時間軸が異なる。そのため、同時に実施する、あるいは同時期に議論することに何ら問題はないのではないか。所得減税は来年6月から1年間の措置となる可能性が高い一方、防衛増税は2024年度中には実施しない方針であることから、両者の実施時期が大きく重なることもない。
増税策への国民の反発と選挙への影響などに配慮して、どうしても増税による恒久財源確保を政治的に決めることができないのであれば、歳出面、つまり防衛費増額を再度見直し、規模縮小を図るべきではないか。岸田首相は当初、防衛費増額の「中身、規模、財源」を一体で決めるとしていた。防衛増税の議論がここまで迷走してしまったことを踏まえれば、縮小均衡も選択肢とすべきだろう。
所得減税で自民と公明に意見の相違
他方、2024年度の与党税制改正大綱に盛り込まれる所得減税について、自民党と公明党との意見の相違が表面化している。政府は、2024年6月から実施予定の定額所得減税を、賃金上昇が物価上昇に追い付くまでの一時的な措置であると位置づけ、1年間の時限減税としている。
これに対し公明党は、最初から1年間と決めず、経済状況などを踏まえて柔軟に対応できる余地を残すよう求めている。そもそも、現在の経済情勢のもとでは、所得減税など経済対策を実施する必要性は乏しい。確かに物価高は、国民生活を圧迫しているが、それへの対応策は、物価高によって生活基盤が損なわれている一部の低所得者に、集中的に実施すべきだ。
2024年の日本経済は、国内要因では物価高の影響、海外要因では米国経済の減速の影響、さらに円高、株安などの金融市場の影響によって、成長率は大きく低下することが見込まれる。2023年の実質GDP成長率は+1.7%に達したと見込まれるが、2024年には、その3分の1程度の+0.6%まで低下すると予想する。インバウンド需要の急回復の一巡も、2024年の成長率を2023年と比べて大きく下振れされる要因となろう。
景気の下振れ感は、2025年にかけても続く可能性が考えられる。そうしたもとでは、減税措置は延長されやすいだろう。仮に、2024年6月から実施予定の定額所得減税を1年間の時限減税に位置付けない場合、それは恒久減税措置に転化してしまう恐れがある。その場合、2兆円超の恒常的な税収不足を生じさせ、現在の極めて厳しい財政環境を一段と悪化させてしまう。それが国債発行で穴埋めされる場合には、将来への負担の転嫁から将来の成長期待が損なわれてしまう恐れがある。
減税実施の是非も問われるべきであるが、仮に実施するのであれば、財政環境に与える影響を踏まえて、時限減税であることを2024年度与党税制改正大綱に明記すべきだ。
高校生扶養控除縮小に異論
2024年度の税制改正で政府・与党は、高校生(16~18歳)の子どもがいる世帯の扶養控除について、控除額を縮小する案を検討している。少子化対策の一環として児童手当の対象を高校生まで広げることから、高校生の子どもがいる世帯が、控除と手当で2重の優遇措置を受けることを避ける狙いがある。
しかし、児童手当の対象を高校生まで広げることは、政府の少子化対策の目玉の一つであることから、それを損ねることになるとして、控除額縮小に反対意見が浮上している。
政府が与党税制調査会に示した資料によると、控除額を所得税については現在の38万円から25万円に、住民税については33万円から12万円に縮小する一方、児童手当の対象を高校生までに拡大して、子ども1人あたり年間12万円が支給される場合、すべての所得層で手取りはプラスになると説明している。
それでも、控除の縮小は、政治的打撃になることから反対意見は根強く、なお着地点は見えていない。手当拡充と控除縮小を同時に行うのは国民に分かりにくいというのは、所得減税と防衛増税を同時に議論するのは国民に分かりにくい、という議論と似ている。
このように、防衛費増額や少子化対策の財源を巡って、与党内で意見の対立が続くのは、財源議論を先送りしてきたことの付けと言えるのではないか。防衛費増額や少子化対策などの実施には党内で反対意見は出にくいが、その財源の検討を始める段階になると、議論はにわかに進まなくなる。本来は、対策の内容、規模、財源を同時に議論することで、3者ともに最適なものが決まるようにする必要があるはずだ。税制改正大綱での2年続けての混乱は、こうした政策決定のやり方を、再度見直す必要があることを示しているのではないか。
(参考資料)
「防衛費:防衛増税、25年見送り検討 政府・与党 支持率低下回避狙い」、2023年12月9日、毎日新聞
「扶養控除:与党、高校生扶養控除縮小に異論 「異次元の少子化対策」と矛盾?」、2023年12月10日、毎日新聞
「高校生いる世帯 手取りは増*政府試算*児童手当 扶養控除縮小上回る」、2023年12月10日、北海道新聞
「防衛増税、大綱が焦点 25年見送り、法案提出先送り方向」、2023年12月9日、朝日新聞
プロフィール
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。