&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

FRBの利上げ局面は終了

12月12・13日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)では、米連邦準備制度理事会(FRB)は3回連続で政策金利を据え置くことを決めた。これは事前予想通りの決定であったが、参加者の金利見通しやパウエルFRB議長の発言を受けて、金融市場は従来以上に来年の利下げを織り込んだ。その結果、ドルは大幅に低下し、ドル円レートは1ドル145円台前半から142円前後へと、一気に3円以上も円高に振れた。さらに、米国10年国債利回りは大幅に低下し、8月以来となる3%台を付けた。

FOMC参加者によるFF金利(政策金利)の予測値を見ると、すべての参加者が2023年末に5.25%~5.50%の水準を予想した。これは現在のFF金利の水準であり、もはや追加利上げを予想する参加者はいなくなったのである。前回9月の予測値では、年末までにあと1回(0.25%ポイント)の追加利上げが予想されていた。これを受けて、金融市場は利上げ局面が終わったことを確信した。

さらに2024年末の政策金利の予測値の中央値は、4.6%と9月時点での5.1%から予想以上に引き下げられた。来年には0.25%幅であれば3回強の利下げが実施されることを示しており、予想以上にFRBは利下げに前向きとの見方を金融市場は強めた。

来年の利下げ観測が強まる

記者会見でのパウエル議長の発言については、物価上昇リスクに対する警戒は緩めておらず、慎重なトーンが目立った。議長は「インフレ率は依然として高すぎるし、継続的な低下は確実ではなく、先行きは不透明」、「(インフレ率の低下は)2%への回復に向け、さらなる前進を確認すべきだ」などと述べた。

しかし他方でパウエル議長は、「政策金利はピークに近い可能性があるだろう」とし、また「今日の会合でも(利下げを)を議論した」と利下げが議題に上ったことを初めて明らかにした。

こうしたパウエル議長の発言は、予想外にハト派なものであり、FOMCのFF金利見通しと合わせて、金融市場の追加利上げ観測をほぼ消滅させるとともに、来年の利下げ観測を強めた。

FOMCを受けて、金融市場では、来年にFRBは0.25%幅で5回程度の利下げを織り込んだ。

日本銀行の政策修正見通しを前倒しする動きも

FRBが来年の利下げに前向きな姿勢をより明らかにし、その結果、円高ドル高が進んでいることは、日本銀行の政策修正を後ずれさせる要因だ。為替市場では、FRBが利下げに動く一方、日本銀行がマイナス金利政策解除へと逆方向に動き、日米金利差が急速に縮小するとの観測が、円高ドル安を生じさせている面がある。しかし実際には、為替市場の安定を重視する日本銀行は、FRBと逆方向の政策を実施する可能性は低い。

FRBが来年春など実際に利下げに動く前に、日本銀行が急いでマイナス金利政策解除に動くとの見方も浮上している。実際、来年4月の政策修正時期の見通しを、1月に前倒しする動きも一部にみられている。

金融市場の想定よりも日銀のマイナス金利政策解除は後ずれ

しかし、FRB が実際に利下げに動く前であっても、近い将来の利下げ観測を金融市場が強めた段階で、日本銀行が政策修正に動けば、急速な円高が進むリスクがあるため、実際には日本銀行は動けないだろう。

FRBが来年春頃から複数回の利下げを実施した後に、比較的早期に追加利下げ観測が収まっていけば、来年末頃に日本銀行がマイナス金利政策解除に動くことができる環境が整う。しかし、FRBの利下げがより大幅で長期化する場合には、日本銀行のマイナス金利政策解除は2025年以降に先送りされるだろう。

現在金融市場が想定しているよりも、日本銀行がマイナス金利政策解除に動く時期は後ずれする可能性を見ておきたい。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。