安倍派閣僚交代などは当座の対応でしかない
岸田首相は14日に、自民党安倍派による政治資金パーティ収入の裏金化疑惑を受けて、安倍派4閣僚と5人の副大臣などを一気に交代させる人事を行った。さらに、自民党役員の辞表提出も続いた。4閣僚には、松野官房長官、西村経済産業相も含まれる。松野官房長官の後任には、岸田派の林前外相が起用された。
岸田首相は、「国政の遅滞を回避するため」人事を行うと説明していた。ただしこれは当座の対応に過ぎない。交代となった安倍派議員については、疑惑の実態はまだ明らかにされていない。それは、今後本格化する東京地検特捜部の捜査によって明らかになっていくだろう。その過程では、他の派閥にも問題が広がっていく可能性も残されている。この点から、今回の人事はごく初期的な対応でしかない可能性もある。東京地検特捜部は週明けにも、安倍派と二階派の関係先への家宅捜索など、強制捜査に乗り出す方針を固めたと報じられている。
「政治とカネ」の問題に対する国民の強い不信感が高まる中、岸田政権には、安倍派に留まらず、自民党全体、あるいは政治全体の信頼を取り戻す観点から、抜本的な政治改革に取り組むことが強く求められるだろう。
「抜け穴」になっている政治資金パーティ
そもそも今回の問題の本質は、政治資金パーティが通常よりも緩い条件で、政治献金を集めることができる、いわば「抜け穴」になっていることだ。政治献金では5万円を超える場合には献金者の名前等が政治資金収支報告書に掲載されるのに対して、パーティ券の購入の場合には、1回につき20万円を超える場合にのみ、購入した団体、個人の氏名や金額の開示が求められる。より規制が緩く、透明性が低いのである。
今回の問題発覚の発端となったのは、パーティ券購入側の記録と派閥側の記録との間で、大きなずれが生じていることが明らかになったことだ。20万円を超えるパーティ券購入の団体、個人の氏名や金額が正確に派閥の報告書に記載されていなかったのである。
派閥のパーティ券については、派閥所属の議員に販売のノルマが課されている。同じ派閥の異なる議員が同一の団体に対して別々にパーティ券を販売することも少なくないだろう。その結果、団体のパーティ券購入額が20万円を超えれば、団体の報告書には記載される。
ところが、議員がお互いに情報を照らし合わせることがない場合、個々の議員の販売額が20万円未満であれば、派閥の報告書にはその団体の名前は記載されない。しかし、この場合、団体の名前が記載されないのはミスであり、報告書に記載されるパーティ券収入の総額は変わらない、というのが岸田首相の説明である。
政治資金規正法違反と脱税疑惑も
ところが、安倍派の場合には、各議員に与えられたノルマを超えてパーティ券を販売した場合には、その収入は派閥ではなく議員個人に入る、というキャッシュバックがなされていた。それは、派閥、個人双方の報告書に記載されていなかったとされる。また、議員の支出にも記載されていなかったとされる。これは、正確な情報開示を求める政治資金規正法違反である。しかし、問題はそれに留まらない。
この場合には、事実上、議員が団体から政治献金を受けていたことになるだろうが、これは原則として禁止されている、政治家個人への献金に相当するのである。さらに、キャッシュバックされた資金を議員が政治活動以外に使用した場合には、それは脱税行為に当たると考えられるだろう。
受け取った資金が課税対象になるかどうかは、それが政治資金か個人所得かによって異なるのである。選挙費用の名目で受け取った資金を、政治活動に使えば課税対象とならないが、それを個人の支出に流用し、確定申告をしなければ、脱税となる。
政治資金規正法の本来の目的に立ち返れ
このように政治資金パーティ、特に派閥パーティ券収入が、政治資金規正法の「抜け道」となり、国民の目が十分に届かない形で政治献金が集められ支出される、そして裏金化されているのであれば、今後は同法の大幅な見直し、厳罰化などの対応が必要となるのではないか。
共産党は、企業や団体によるパーティ券の購入や政治献金を全面的に禁止することなどを盛り込んだ政治資金規正法の改正案を既に国会に提出している。この改正案では、企業や団体によるパーティ券の購入や政治献金を全面的に禁止する、個人による政党や政治資金団体への献金の上限額を現在の年間2,000万円から年間1,000万円に引き下げる、違反した場合の公民権の停止期間の延長など罰則を強化する、などが盛り込まれている。
政治資金規正法はその第1条で、同法の目的について、「政治資金規正法は、議会制民主政治の下における政党その他の政治団体の機能の重要性及び公職の候補者の責務の重要性にかんがみ、政治団体及び公職の候補者により行われる政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため、政治活動の公明と公正を確保し、もって民主政治の健全な発達に寄与することを目的とする」と説明している。この法律の目的にかなう形で、政治資金規正法の改正を検討すべきではないか。
リクルート事件後と同様の大きな政治改革の流れとなるか
未公開株が政治家や官僚などに幅広く賄賂として譲渡された、1988年のリクルート事件発覚以降、選挙制度と政治資金制度の抜本的な改革を一体のものとして行う「政治改革」が1990年代前半の最も重要な政治テーマとなった。その中で、小選挙区比例代表並立制を柱とする選挙制度改革などが導入され、また、1992年には宮澤内閣のもとで、政治資金パーティに関する規制、政治団体の資産公開、政治資金の運用の制限などが新設された。
さらに1994年には、当時の連立与党が、政治資金団体に対する企業・団体献金を2000年から全面的に禁止する措置を講ずることを検討した。それに沿って、1994年の改正では政治家個人への企業・団体からの政治献金が禁止された。さらに1999年には、資金管理団体への企業・団体献金も禁じられた。しかし、政党本部や政治家が代表を務める政党支部に対する企業・団体献金は禁止されなかったのである。
このように、過去の政治資金規正法の改正が不十分であったことが、今回の問題の温床になっている可能性もあるだろう。
リクルート事件後のように、政治資金規正法の改正を含む抜本的な政治改革が、岸田政権の喫緊の政治課題となってきたことは明らかだ。これに迅速かつ真摯に取り組まない限り、内閣あるいは自民党への国民の支持率は一段と低下するのではないか。
他方、岸田政権が政治改革に大きく軸足を移す中では、防衛費増額、少子化対策などの財源確保の議論がさらに先送りされていくなど、政策全体が一段とその推進力を失ってしまうことも、懸念されるところである。
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