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実質的には予算規模の拡大に歯止めがかからない

政府は12月22日に2024年度予算案を閣議決定する予定だ。一般会計総額は110兆円超と、2023年度当初予算の114兆円から12年ぶりに減少する見込みである。

しかしこれは、今まで巨額の計上がなされてきた新型コロナウイルス対策の予備費を、感染リスクの低下を受けて今年度の5兆円から1兆円程度に抑えることと、防衛力強化資金への繰り入れがないことが主な要因だ。これらは、財政環境の改善を目指した政府の歳出改革の結果とは言えない。

この2つの要因を除いた予算額は、2023年度は106兆円程度であったが、2024年度予算案はこれを上回る見込みであり、実質的には予算規模の拡大に歯止めが掛からない状態が続いている。

防衛費増額、GX投資、少子化対策の「歳出3兄弟」は既に予算に計上されており、歳出増加圧力は以前にも増して高まっている。他方で、歳出抑制は進んでいない。政府は新型コロナウイルス対策などで大きく膨らんでしまった予算規模を、平時に対応した規模に正常化させる方針を示しているが、それは十分に実現できていない。

さらに、防衛費増額、少子化対策については、財源確保の手段が確定しない中で、歳出は進められることから、財政赤字が一段と拡大するリスクが高まっている。

日銀の政策正常化で高まる金利上昇リスク

2024年度予算でさらに注目されるのは、金利上昇のリスクだ。財務省は2024年度当初予算案で、国債利払い費の前提となる積算金利を1.9%とする方向で検討していると報じられている。これは、日本銀行のイールドカーブ・コントロール(YCC)の運営柔軟化を受けて、今年10月にかけて長期金利が上昇したことを受けたものだ。

その後長期金利は低下しているものの、YCCの運営柔軟化によって長期金利が市場実勢を反映するようになったことから、金利変動リスクは従来よりも高まっている。さらに、2024年にも日本銀行はマイナス金利政策を解除し、短期金利を引き上げる可能性がある。

積算金利の引き上げを要因に、国債の返済と利払いを合わせた2024年度の国債費は、2023年度当初の25兆2,503億円を上回り、過去最大を更新することが見込まれる。

ドーマーの条件に従い財政リスクは高まる

政府は2025年度に税収から国債費などを除く歳出総額を引いたプライマリーバランス(基礎的収支)を黒字化させることを目指している。他方、プライマリーバランスの赤字が続く中では、通常であれば政府債務の名目GDP比率は上昇を続け、政府債務が発散的に増加してしまうという、財政リスクが高い状態が生じるはずだ。しかし実際には、同比率には頭打ち傾向が見られており、このことが、財政リスクについての危機感を弱めてきた面がある。

名目GDP成長率と国債の金利が一致する場合、プライマリーバランスの赤字は政府債務の名目GDP比率の上昇をもたらすが(ドーマーの条件)、日本銀行の異例の金融政策によって、金利上昇が抑えられてきた結果、プライマリーバランスの赤字が続くもとでも、政府債務の名目GDP比率は上昇してこなかったのである。

しかし日本銀行がこの先金融正常化を進める中では、金利の上昇が政府債務の名目GDP比率の上昇につながり、財政リスクがにわかに高まる可能性がある。このような環境変化を踏まえて、政府は歳出抑制を通じた財政環境の改善に、今まで以上に真剣に取り組まなければならない。

(参考資料)
「歳出削減努力乏しく 来年度予算案 総額減、予備費を圧縮」、2023年12月20日、日本経済新聞社
「来年度予算の積算金利1.9%に、市場実勢反映で17年ぶり上げ-関係者」、2023年12月20日、ブルームバーグ

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。