バイデン政権が中国製EVに追加関税を検討
バイデン政権が、中国製の電気自動車(EV)の関税引き上げを検討している、とウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じている。
米政府は今までも、中国製EVを米国市場から事実上締め出す強力な措置を講じてきた。トランプ前大統領は、中国の自動車に25%の輸入関税を課した。さらにバイデン大統領はこの政策を維持したうえで、EV購入時の1台当たり最大7,500ドルの税控除を中国車が受けられないようにする、などの追加策を講じた。
さらにバイデン米政権は12月1日に、今年発効したこのEV購入者への税控除措置について、中国の関連企業などが生産した電池部品、重要鉱物を使用する車種を、2024年から段階的に対象から除外する指針を発表した。2024年からバッテリー部品、2025年からニッケルやリチウムなどの重要鉱物が適用対象となる。部品、材料まで含めて、中国製EV関連を米国市場から締め出す狙いである(コラム「 米政府がEV製造サプライチェーンの中国依存低下を狙って新指針 」、2023年12月8日)。
しかし、25%の輸入関税と7,500ドルの税控除の対象外とするという2つの障壁を設けてもなお、中国製EVが米国市場に浸透してくることを、米政府や自動車産業は警戒している。中国での巨額の補助金が、安価での中国製EV販売を、海外で可能にしているためだ。そこでバイデン政権は、追加の関税引き上げで障壁を一段と高くしようとしているのである。2024年の大統領選挙を睨み、対中強硬姿勢を自動車産業や国民にアピールする狙いがある。
中国は報復措置を示唆
ただし今回の関税引き上げは、中国のEVだけをターゲットにしているのではない。EV向けバッテリーパック、太陽光発電に関連する製品など、EV以外のクリーンエネルギー関連製品も関税引き上げの対象として検討されている。
この関税引き上げは、トランプ前大統領が発動した約3,000億ドル相当の中国製品に対する関税の見直しに関する調査結果を受けた措置である。バイデン政権は、クリーンエネルギー関連製品の関税を引き上げる一方で、戦略的に重要でない消費財の一部については、関税引き下げを検討しているという。
この報道を受けて、中国外務省報道官は、正当な利益を保護するために必要な措置を取ると述べ、報復措置の可能性を示唆した。
米国大統領選挙と米中貿易対立が2024年世界経済のリスクに
EV材料で中国は世界生産の8割を占めており、米国の自動車メーカーもEVの製造で中国製の電池部品、重要鉱物に多く依存している。自動車メーカーがそれらの調達先を見直すことを促す狙いで、米国政府は中国製の電池部品、重要鉱物をEV購入者への税控除措置から外していくことを決めたのである。
しかし、サプライチェーンの再構築には時間がかかる。他方、米国政府が中国製EVに対して追加の輸入関税を課す場合には、中国政府が米国の自動車メーカーに対する中国製の電池部品、重要鉱物の輸出を制限する報復措置を講じる可能性があるのではないか。その場合には、米国のEV製造に大きな打撃となりかねない。
2023年には中国経済の減速が明らかになったが、2024年には、金融引き締め効果で米国経済の減速も生じ得る。そうした中、世界第1、第2の経済規模を持つ両国間で貿易面での対立が強まり、報復措置の応酬となれば、両国経済の減速リスクがより強まる可能性があるだろう。
米国では、共和、民主両党ともに中国強硬姿勢が強い中、2024年の大統領選挙を睨んで、バイデン政権が中国強硬姿勢をより強くアピールすることが予想される。それは、両国経済の減速リスクを高め、2024年の世界経済の大きなリスクの一つとなるだろう。
(参考資料)
"Biden Administration Explores Raising Tariffs on Chinese EVs(米、中国製EVの関税引き上げ検討=関係筋)", Wall Street Journal, December 21, 2023
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
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