北京市第一中級人民法院(中等裁判所)は1月5日に、中国のシャドーバンキング(影の銀行)大手の中植企業集団破産申請の受理を決定した。同法院によると、中植企業集団は期限までに債務を返済できなかったほか、すべての債務を償還するのに必要な資産が不足しているなどの理由で破産申請を行ったという。今後は「企業破産法」に基づき、破産清算手続きが進められる見通しだ。最近の中国では、最大級の規模の企業破綻となった。
同社の経営危機の問題が浮上したのは、2023年8月に、傘下の信託会社、中融が組成した高利回りの信託商品でデフォルト(債務不履行)が生じたと、顧客3社が明らかにしたことによる。中融は中国で9番目に大きな信託会社である。その後、中融が明らかにしたところでは、同社は2023年7月下旬から少なくとも30商品の支払いが滞っているという(コラム「 深まる中国シャドーバンキング(影の銀行)の問題 」、2023年8月18日)。
中融の信託商品でデフォルトが頻発するきっかけの一つとなったのは、中国大手不動産開発会社の碧桂園(カントリーガーデン)の経営危機とみられる。
中植は裕福な個人投資家と企業の資金を集め、一般銀行から融資を受けるのが難しい中小企業や不動産開発会社に融資するシャドーバンキングの役割をしてきた。不動産市場が活況であった際には、資産規模が1,400億ドル、約20兆円を超えたとされる。
競合する信託会社が過去数年リスクを縮小する中でも、中植とその傘下の中融国際信託は、経営難に陥った不動産開発会社への投融資を拡大していた。また、経営危機に陥った中国恒大集団などからも資産を積極的に買い取っていた。
その後中植企業集団は2023年11月に、投資家に対して謝罪文を発表し、仲介機関を通じて検証を行った結果、帳簿上の総資産は約2,000億人民元に達する一方、保証金を除く負債は4,200億~4,600億人民元に上ると説明した。つまり、債務超過額が2,200億~2,600億元(約4兆6千億~5兆4千億円)にも達していたと考えられる。
この時点で既に破綻は免れない状況だったと思われるが、その後も中国の不動産市場の調整が続く中、今回の破綻に至った。
中植の債権者の大半が金融機関でなく高額資産家であるため、銀行システムを揺るがす事態には発展しないだろう。しかし、約3兆ドルと推算される規模の中国のシャドーバンキングの混乱は、不動産市場への資金の流れを一段と細らせ、不動産市場の調整の長期化をもたらし、中国経済に強い逆風となるだろう。
今回の中植企業集団の破産申請については、当局がシャドーバンキングの連鎖的な危機を回避するために、早めの対応を見せたと評価する向きもある。他方、一部の報道では、「中植の顧客は中国共産党幹部とつながりのある裕福な個人や企業だ」と指摘されており、彼らの利害に配慮して、当局が事態の収拾に動いた、との見方も一部にあるようだ。
(参考資料)
「中国シャドーバンク大手「中植企業集団」が破産申請 債務超過364億米ドル (金融・保険・証券)」、2024年1月9日、ChinaWave経済・産業ニュース
「中国「影の銀行」中植企業集団が破産…不動産市場に打撃」、2024年1月9日、中央日報
「中国の大手資産運用会社が債務超過に、「信用バブル崩壊へのカウントダウン始まる」と米誌」、2023年12月15日、Record China
プロフィール
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。