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自民党の対応の遅れ

29日に衆参両院の予算委員会で、「政治とカネ」の問題を巡って与野党の本格論戦が始まった。岸田首相は野党議員から厳しい質問を浴びせられ、かなり守勢に立っている印象だ。自民党が自浄作用を見せるよりも、政治改革議論は野党が強くリードする形でこの先進んでいく可能性を示すものとなった。

自民党は党内での意見統一ができない中、25日に政治改革本部が示した中間とりまとめも、依然として具体性を欠いている(コラム「 踏み込み不足の政治刷新本部・中間とりまとめ:政治改革は国民の意識改革と一体で 」、2024年1月26日)。

問題発覚から2か月が経過する中でもなお、「中間とりまとめ」という名称を使っていること自体、自民党の対応の遅れを表していると言えるだろう。「いつ最終版が出るのか」、という野党議員の質問に岸田首相は明確に答えることはできなかった。問題解決に向けた党としての対応の遅れは、まさに派閥による党のガバナンスの低下という今回の問題の本質を露呈するものなのではないか。

岸田首相は、まず事実関係の把握が遅れている点で、野党議員から追及された。岸田首相は衆院予算委で、「裏金」に関わった議員の数を問われると、「裏金」の定義が不明確であると断りつつ、安倍派が30人以上、二階派は7人が政治資金収支報告書の訂正を明らかにしたと発言した。しかしこれらは自ら問題を認め、政治資金収支報告書を訂正した議員の数の集計に過ぎず、実態はなお明らかではない。

実態把握へ関係者から事情を聴取する枠組み作りを党幹部に指示した、と岸田首相は説明したが、対応は明らかに遅れている。野党議員は、「事実関係ができなければ、再発防止策もできない」と指摘していたが、その通りである。

「連座制」導入の是非と「政策活動費」の使途明確化も議論の対象に

与野党論戦では、従来から議論されてきた「連座制導入」の是非に加え、「政策活動費」の改革が大きなテーマとして浮上した感がある。

政治資金問題で会計責任者だけでなく議員も処罰対象となる「連座制」の導入について、中間とりまとめでは明確な記述はなされなかったが、今回の予算委員会では、岸田首相は今後与野党で協議する意向を示した。

派閥のパーティ券収入の政治資金収支報告書への不記載について、多くの議員が、「記載の必要性がない、党から渡される『政策活動費』と理解していた」と答えている。そのため、使途が不明確なこの政策活動費の問題も、予算委員会で大きく取り上げられた。

衆院予算委では自民党の二階氏が幹事長時代の5年間に、50億円近くの政策活動費を受け取っていたことが指摘され、二階氏に証人喚問を求める声も出た。

野党議員から、政策活動費の使途についても明らかにするように法改正を提案されると、岸田首相は、「政治活動の自由と国民の知る権利とのバランスで考える」と、直接的な回答を避けた。政策活動費の使途を明らかにすれば、党の政治活動が制約を受けることを懸念する印象の発言だ。

しかし最終的には「政治活動の自由そのものに関わる問題で法改正を伴う。各党が共通のルールを定めることになるため国会で真摯に議論したい」と話し、法改正の可能性は否定しなかった。

日本維新の会は29日に、独自の「政治改革大綱」を発表した。ここでは、企業や団体による献金に加えて政治資金パーティ券の購入も禁止することを定めた。さらに、上記の政策活動費を廃止し、新たな制度を創設することにまで踏み込んだ。

このように、政治改革の議論は、野党が完全に主導権を握っているように見える。野党に強く押され、自民党は今後改革案を受け入れていく、受動的な対応となるのではないか。その結果、政治資金の透明化などの観点から、「政治とカネ」の問題への対応は相応に進む可能性があるだろう。

しかしその過程では、自民党は主体的に党改革、政治改革を進めることができず、自浄作用を発揮できなかったとして、国民からの信頼回復よりも、政権党としての威信を一定程度失うことになるのではないか。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。