実質賃金低下が株高の一因に
2023年10-12月期の実質GDPが、2四半期連続でマイナスとなったことで、物価高、実質賃金低下の逆風を受けた個人消費の弱さを中心に、国内経済が低迷していることが改めて確認された。
そうした中、日経平均株価は1989年12月29日につけた史上最高値、3万8,915円87銭が目前に迫っている。急速な株高の背景には、円安・物価高がある。
株価も「名目値」であることを踏まえると、物価が40年ぶりの水準に達した中、株価が34年ぶりに史上最高値を更新することは、ある意味自然な流れとも言えるだろう。
ただしその状態がなお続くには、物価高、そして株価を押し上げるもう一つ大きな要因である円安が持続的であることが必要だ。それについてはかなりのリスクがあるのではないか。
足もとの経済は弱さが目立ち、個人の生活は物価高、実質賃金上昇の強い逆風に晒されている。その一方で、株価は大幅に上昇しており、経済や生活実感との間に大きなずれが生じている。
円安進行などによって一時的に物価上昇率が上振れる一方、企業は物価上昇ほどには賃金を上げていない。その結果、実質賃金は低下し、労働分配率が低下する中、企業収益が大幅に拡大しているのである。それが株価を押し上げている面がある。
ただしその裏側では、個人の所得が犠牲になっている構図だ。これは、個人にとっては必ずしも良い株価上昇とは言えないだろう。
マイナス金利政策解除後の緩和継続期待が円安・株高をさらに後押し
円安は、輸出企業の業績を改善するばかりでなく、海外投資家から見た日本株を割安にすることで、日本株投資を促し株価上昇に貢献している。米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げに転じる観測が強まる一方、日本銀行がマイナス金利解除に踏み切る姿勢を鮮明にする中、本来であれば日米の金利差縮小期待でドル安円高に進んでもおかしくない局面だ。実際そうなれば、株価には逆風となる。
しかし、米国経済の堅調が続く中、FRBの利下げ観測もインフレ率の低下を映した予防的な利下げの側面が強く、必ずしもドル安要因とはなっていないのが現状だ。
そして日本銀行は、マイナス金利政策を解除してもゼロ近傍の政策金利を維持する考えを強調している。2%の物価目標を達成し、物価上昇率、中長期のインフレ期待が2%程度で安定するもとで、ゼロ近傍の政策金利を維持するのであれば、それは実質-2%程度の「超緩和」状態を続けることを意味する。これはかなり異例なことだ。
物価高のもとでの金融緩和が経済を刺激せず株式市場に押し上げる「金融相場」
足もとの物価上昇率の上振れ局面では、中長期のインフレ期待が高まる下で日本銀行は異例の金融緩和を維持してきたことから、実質金利は低下し、金融緩和は強化されてきたはずである。
ところが、それが実体経済に大きな影響を与えたようには見えない。実体経済には大きな影響を与えないが、一方で、金融市場には大きな影響を与えたのではないか。それが円安進行であり、またそれとも連動した株価上昇である。
そして、2%の物価目標達成後もゼロ近傍の政策金利を維持するとの最近の日本銀行の説明が、実質-2%程度の「超緩和」状態の継続期待を強め、株高と円安を一層加速させている。
このように、足もとの株高は、日本経済の構造変化、成長力の回復といった実体経済の変化ではなく、一時的な物価高の追い風の下での金融環境の変化によって引き起こされた、いわゆる「金融相場」の色彩が強いと考えられる。
2024年の株式市場は「いってこい」か
しかしそのような環境は永続するものではない。日本銀行が早ければ3月にもマイナス金利政策解除に踏み切ると、「当面は政策金利をゼロ近傍に据え置く」という日本銀行の方針に金融市場で疑問が生じ、短期金利が早期に引き上げられていくとの観測が生じる可能性がある。それは、円安・株高の流れに水を差すだろう。
また、今年後半には、2%を下回る物価上昇率が定着する中、物価上昇率はさらに低下していくとの見通しが浮上するのではないか。その場合には、物価・賃金の好循環への期待が後退する中、企業収益の増加期待も低下していくだろう。
さらに、米国経済に利上げの効果が浸透していく中で、円安と日本株の追い風となっている米国経済のソフトランディング期待も後退していく可能性がある。大統領選挙でのトランプリスクも、今後は意識されていくようになることも考えられるところだ。
なおしばらくは、日本株は楽観論に支配され続ける可能性があるだろうが、それを支えているのが一時的な物価高と異例な金融環境であるとすれば、持続性には危うさがある。年後半には株式市場の追い風はむしろ逆風へと転じていき、1年を通してみれば、株式は「いってこい」のパターンとなりやすいのではないか。
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