旧統一教会問題で文科相の不信任決議案と予算審議の遅れ
2023年10-12月期の実質GDPは、前期比年率-0.4%と2四半期連続でマイナスとなり、さらに年明け後も経済の低迷が続いている。そうした中、国会では、旧統一教会の問題、政治資金の問題によって、2024年度予算の可決が遅れる可能性も出てきており、その経済への悪影響も懸念されるところとなっている。
立憲民主党は2月19日に、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関連団体との接点が指摘されている盛山文部科学相への不信任決議案を、衆院に提出した。盛山氏は、教団側との接点について「記憶がない」と繰り返してきた。同氏は、旧統一教会の解散命令請求の責任者にあたるが、22日から東京地裁が国側と教団から意見を聞く審問が始まることも踏まえ、同氏が文科相を続けることの妥当性を問う声が野党内で強まっていた。
自民党は、盛山文部科学相への不信任決議案を20日に衆院で否決した。しかし、既に不信任決議案の提出によって、衆院予算委員会の審議は止まった。与野党は不信任決議案の提出後に衆院予算委員会の理事会を開き、19日午後の予算審議をしないことを確認した。不信任案の処理は他の案件に優先されるのである。
政府与党は憲法の規定で年度内に自然成立する3月2日までの衆院通過を目指している。しかし慣例上、まだ20時間以上の審議時間が必要だ。また、予算案の採決にあたっては、中央公聴会の開催も法律で義務付けられている。
政治倫理審査会の開催が焦点に
さらに野党は、政治資金問題での政治倫理審査会の開催を求めている。野党は16日の政倫審幹事懇談会で、派閥からの資金還流を収支報告書に記載しなかった現職82人のうち、すべての衆院議員51人の政治倫理審査会出席を求めた。参院でも政倫審開催を主張している。
岸田首相は政倫審の開催要求を受け入れる方針を固め、自民党は、野党が衆院政治倫理審査会への出席を求める衆院議員51人の意向確認に着手した。政治資金収支報告書を訂正した安倍派(清和政策研究会)と二階派(志帥会)を対象とする。
焦点となるのは、安倍派(清和政策研究会)幹部の「5人衆」と二階派(志帥会)会長の二階元幹事長が参加するかどうかであるが、彼らは参加に後ろ向きとされる。
政治倫理審査会は、疑惑を持たれた議員本人が申し出た場合、あるいは同会委員の3分の1の申し立てと過半数の賛成が得られた場合に開催される規定である。ただし委員会が開催を決めても、議員は参加を拒むことができる。
与党は、予算審議への影響を考えて、政治倫理審査会を予算案衆院通過後の3月に開催することを検討している。しかし野党側は、予算案の衆院採決前に政治倫理審査会を開催し、いわば予算成立を人質にとって、政治資金問題で自民党を激しく揺さぶる戦略に出る可能性も考えられる。
予算案など重要法案の審議と具体的な政治改革の議論を進めることが重要
ところで、政治倫理審査会の開催については、野党と政府・自民党の対立の構図、とは単純に言いきれない面もある。岸田首相としては、安倍派5人衆や二階氏らが審議会の場で裏金疑惑について十分な説明を行うことで、国民の政治不信、自民党への不信の緩和を図りたいと考えているだろう。しかし、彼らに対してそれを強いることが難しいことから、野党の主張を助けに、そうした対応をするように仕向ける狙いもあるように見える。これは、総理、あるいは自民党総裁としての岸田首相の影響力の限界を露呈しているようにも見える。あるいはそれこそが、今回の政治資金問題の底流にある、派閥による党のガバナンス低下を示すものではないか。
野党は、裏金疑惑を抱える議員に説明責任を果たすことを求め、実態解明を進めることを狙っている。確かに実態解明は必要であるが、それと並行して、政治資金規正法改正など具体的な政治改革の議論も進めることが重要だろう。野党が、実態解明の名目で、自民党を叩き政治的な利益を得ることを優先する姿勢は問題だ。そうした中で予算審議が遅れ、経済活動に悪影響が及ぶことや、その他の重要法案の審議を妨げることがあってはならないだろう。
他方で自民党は、国民の信頼回復に向けて、野党に主導権を取られる形でなく、自ら政治改革を進める自浄作用を発揮して欲しいところだ。しかし、現状では、自民党内にそのような動きはみられず、多くの派閥が解消された後も、党の一体感が強まる兆しは見られない。党の先行きには、大きな不確実性が高まっている。
(参考資料)
「立民、文科相の不信任案提出 与党は20日否決の構え」、2024年2月20日、日本経済新聞電子版
「窮地の政権、揺さぶる立憲 安倍派、政倫審及び腰/文科相不信任案で圧力」、2024年2月20日、朝日新聞
「政倫審 51人に意向確認 自民 開催は来月予算通過後」、2024年2月20日、産経新聞
「政倫審出席、51人に意向確認―不記載の安倍、二階派議員」、2024年2月19日、共同通信ニュース
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