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NYCBの赤字がさらに拡大

2023年3月10日に米地銀のシリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻に追い込まれてから、間もなく1年となる。当時生じた、中小銀行からの大量の預金流出は、現在では目立って見られないものの、年明け後は地銀株の下落が顕著となっている。その中心にあるのは、ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)だ。

NYCBは1月末に公表した昨年10-12月決算で赤字となった。商業用不動産関連融資の焦げ付きに備えて、大幅な引き当てを積んだことが背景にある。これをきっかけに、業界全体に潜在的な損失の不安が広がった。

さらに2月29日には、過去の取引の減損処理によって赤字規模が当初の10倍超の27億ドルにまで膨らむと公表した。また同行は、「効果的でない監督・管理とリスク評価、監視活動の結果として、内部の融資審査に関する内部統制に重大な脆弱性を経営陣は確認した」と説明した。「内部統制の重大な脆弱性」の具体的な内容は明らかになっていない。

続いて、同日にトーマス・カンジェミCEO(最高経営責任者)が退任し、アレッサンドロ・ディネロ氏が新CEOに就任した。

銀行貸出の減少が示す米国経済と銀行システムの変調

さらに3月1日には、追い打ちをかけるように大手格付会社による同行の格下げが発表された。ムーディーズは、同行の長期発行体格付けを「Ba2」から「B3」まで一気に4段階引き下げた、と発表した。ムーディーズは発表資料で「NYCBはオフィスローンの信用リスクのため、今後2年間に貸倒引当金をさらに積み増さなければならない可能性がある」とも指摘している。ムーディーズは2月6日に、同行の格付けを2段階引き下げたばかりだった。また、フィッチも同日に、1段階の格下げを公表した。

これらの一連のニュースを受けて、3月1日のNYCBの株価は3割近くも下落した。年初来の株価下落率は65%にまで達した。

昨年、預金保険で全額が補償されない大口預金は、中小銀行から中堅・大手銀行へとシフトした。その結果、今回のNYCBの問題を受けても、預金流出の動きは顕著に見られない。しかし、収益への不安から中小銀行の株価は下落している。

また、銀行全体の貸出の減少が続いている。米国の銀行貸出残高は、過去に生じた通常の景気後退時にも前年比で減少には至らなかった。ところが足元では、2008年のリーマンショック後以来の下落となっており、米国経済や銀行システムの変調ぶりを示唆している。経済、金融システムの不安定化を顕在化させる引き金としては、当面、商業用不動産の問題を最も注視しておく必要があるだろう。

図表 米国銀行の貸出の推移(週次)

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。